[天使]
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強力な呪術の血を引き、卓越した呪術の力を持つ榊も、強力な呪力の『源泉』を持つマサさん達には勝てず命を落とした。
榊が死んで直ぐに、T教団とシンさん達の間で手打ちが行われた。
詳細は判らないが、T教団は千津子の呪力を封印し今後一切、呪詛を行わせない事。
シンさん達のグループは、千津子やT教団の幹部に呪詛を仕掛けない事が取り決められたらしい。
千津子はT教団の手により保護された。
だが、直ぐにとんでもない事実が明らかになった。
千津子が妊娠している事が判ったのだ。
千津子はある強力な呪術の血を受け継ぐ女だった。
そこに榊の強力な呪術の血が加わったのだ。
千津子の呪術の血は、ある特殊な由来を持つ血脈に属していた。
この上なく危険な呪術の『血』が、最も危険な団体の手に落ちたのだ。
シンさん達は、千津子と彼女の娘を監視し続ける事になった。

奈津子は小学校に上がるまでは、多少の知恵遅れはあったものの、普通の子供だった。
だが、彼女の『能力』の萌芽は凄まじかった。
知能の遅れや動作の遅さ、貧しい身なり等の為か、奈津子は悪童達のいじめのターゲットにされていたようだ。
だが、奈津子は悪童達のいじめや、級友たちの無視にあっても泣かず、いつもニコニコしているような子だったらしい。
ある時、奈津子の通っていた小学校で学芸会が行われた。
クラス全員が体育館のステージに上がって合唱を行う予定だったらしい。
この日の為に、千津子はアパートの大家に手伝って貰いながら、奈津子の為に白いワンピースを縫い上げたそうだ。
奈津子はこのワンピースを着る日を楽しみにしていたようだ。
学芸会の当日、奈津子は千津子に手を引かれて学校へ向った。
親子が学校の正門に続く坂道を上っているときに事件は起きた。
石垣の上に待ち伏せていた悪童達が、親子にバケツで泥水を掛けたそうだ。
奈津子の白いワンピースは悪臭を放つドブの汚水に染まった。
この時ばかりは奈津子も大泣きし、そんな娘の姿を見た千津子も泣いたということだ。
アパートの大家は千津子を連れて学校に猛抗議した。
だが、校長と担任教師は悪童の味方をし、悪童の親の一人はかなり侮辱的な言葉を千津子と大家に吐いたようだ。
大家と千津子の涙を見た奈津子は、唖のように黙り込んで外界に反応を示さなくなり、2週間ほど学校を休んだ。
奈津子が自閉していた2週間の間、悲劇が連続して起こった。

奈津子の通っていた小学校では、普段、『登校班』を組んで持ち回りで保護者が子供達を校門まで引率していた。
そんな『登校班』の列に暴走した乗用車が突っ込んだ。
事故は、当時頻発していたAT車の操作ミスによる暴走事故の一例として、報道もされたようだ。
車が大破するほどの事故だったのにも拘らず、突っ込まれた登校班で死亡したのは3人だけだった。
奈津子に泥水を掛けた男子児童2人と、暴言を吐いた母親だった。
更に、奈津子のクラスの児童が次々と謎の高熱を発して倒れ、一人の児童が死んだ。
いつも奈津子に意地悪をする中心となっていた女子児童だった。
事故のためか、『何か』に脅かされた為かは判らないが、女児が死んで直ぐに校長が奈津子のアパートを訪れ、千津子に謝罪した。
だが、翌日から校長は学校を欠勤し、2日後自宅で首を攣っているのを家族に発見された。
校長が死んで直ぐに奈津子のクラスメイトの高熱は下がった。
後遺症の残った児童もいたようだ。
自閉から回復し、再び登校し始めた奈津子を見る周囲の目は一転した。
奈津子は恐怖の対象となっていった。
いつもニコニコして、感情の起伏のない奈津子だったが、一度感情に火がつくと彼女の周囲では死が相次いだ。
千津子が『力』のコントロールを教えたのか、中学の特殊学級を卒業すると奈津子の身辺での変死は起こらなくなった。
だが、レポートに並ぶ数々の変死の実例から、拉致の強行は余りに危険で不可能に思えた。
俺は偽名を名乗って、奈津子の住むアパートに入居した。

続く