[ごうち]
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結局その日は時間が遅いこともあって、翌日改めて現地へ向かうことになった。
そのときは俺も参加した。というより、させて貰った。
オオサキ氏は30そこそこで、背が高く端正な顔立ち、礼儀も正しく好印象であったが、それだ
けに全然霊能者らしくない。
彼はアキバの親父さんが分譲した区画と、ウエノさんが目星をつけた荒地(つまり、ごうち)を
見て回わった。見歩いている最中はまったく無言であったが、一通りめぐると口を開いた。
「社長(アキバのこと)、ちょっと協力していただきたいのですが」
「できることなら、なんでも」
「この土地と周辺の昔の形を調べられないですか?できれば戦前、少なくともニュータウンが
計画される前の状態が知りたいのです」
「できると思います」
「それなら、お願いします。ただし時間がない。急がせて申し訳ありませんが、至急お願いします」
その後、彼はウエノさんに言った。
「ここ、結界が張られていますね。分かりますか?」
「ええ、分かります。でも複雑な形に張られているようですね」
「どういうことでしょう?」と俺はふたりに聞いた。
「いえ、今ははっきりと答えられません。社長が昔のここ周辺の状態を調べていただければ、分
かってくると思いますので少しお待ちください」
とオオサキ氏は答えた。「それでは社長、分かりましたら至急連絡をいただけませんか。夜中で
もかまいませんので」

翌日、アキバはオオサキ氏に依頼されたことを早速調べ上げ、彼に連絡した。
そして、資料をファックスで送って欲しいというので送った。
結論が出ましたら、こちらから連絡いたします、とのことで、実際に連絡が来たのは5日後で
あった。
その間、オオサキ氏は彼なりに郷土史を調べたり、カンダ婆さんに会いに行ったり、新Q地区に
古くから住む人に話を聞いたりしていたという。
その間、幸運にも例の区画から死者は出なかった。

その日の夕刻、オオサキ氏、ウエノさん、アキバ、俺、なぜかオオツカ氏、そしてシブヤさん
という70歳くらいの男性がアキバの事務所に集まった。
このシブヤさん、オオサキ氏が連れてきたのだが、新Q地区の古くからの住人である。

オオサキ氏が語りだす。
「まず“ごうち”とはどんな意味であるか、どんな字を書くかですが、一般的に“ごうち”と
読ませるのは“郷地”或いは状況を鑑みて“業地”などが思い浮かびます。
 時間がなかったので詳しく調べたとは言えませんが、私の推測では“児地”だろうと思いま
す。読んでその通り小さな子供を意味します。
 これが訛って“ごうち”となったのでしょう。或いは…可能性としては高いのですが、わざ
と訛らせたのかも知れません」

オオサキ氏はシブヤ氏に「それではお話していただけませんか」と促した。

「みなさんは知っていらっしゃるようだが、あの土地には忌みごとを捨ててきた、で、何でそ
うなったのかと言えば、これは言い伝えだから本当かどうかは分からんが“村八分”ってのを
知ってるでしょう?」

続く