[ハカソヤ]
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ところが中にはお金など入っていませんでした。
入っていたのは形付けの厚紙と、小さい古びた布キレだけ。
二〜三センチほどの、目の洗い木綿かガーゼのような布で、その半分ほどが
茶色い染みで染まってて、乾いて固まってベコベコと波打っている。
ずいぶんと古い布のようで、地の部分も黄ばんでいました。

一体これは何なんだろう?私は妙な方向に思考をめぐらせていました。
生理の時汚れたショーツを放置しとくとこんな固まり方するんだよね…。
布が変な並打ち方して固まって…
てことはこれ…血…?
でも一人前のはなむけのお守りになんで血のついた布切れなんか?

時間がたつにつれて気になってしょうがなくなってしまい、とうとうお金の
無心の電話にかこつけて、母に聞いてみることにしました。
母は私がハカソヤを叔母からもらっていたことすら知らなかったらしく
驚いた様子でした。
「あの布は何なの?」と聞いてみましたが、母はただ静かな声で
「酷いことが起こらないよう気をつけてね」と言うだけで、結局何も
教えてくれませんでした。

どうしても気になったので、今度は叔母に電話してみました。
久々に話した挨拶もそこそこに私はまくし立てました。
「あれは何なの?あの布は、あの染みは」
叔母は、あれ、知らなかったっけと言う風に、さらりと言いました。

「何って、血よ。女の子の。
 ハカソヤは男にひどいことされないためのお守りだって、
 ○○ちゃん姉さんから教わらなかったの?」


一瞬何を言われたのか分かりませんでした。
叔母がしてくれた説明はこうです。

儒教が伝わる以前はどこの地方でもそうだったらしいけれど、
日本はものすごく性に関してフリーと言うか、他人の奥さんを
何か物でも借りるみたいに借りては犯して、生まれた子は皆で
村の子として育てるみたいな感じだったそうですね。
夜這いなんかも堂々と行われていたのが当然だったとか。
時代がすすむにつれて一般的にはそのような価値観は薄れたのですが
うちの集落は依然としてこんな女性に辛い気風が残っていたそうで。
山奥にあるので情報が伝わりにくかったのと、この地方は貧しいし
冬には農作業も出来なくて、娯楽ややることががセックスくらいしか
なかったのが関係してるのではと思います。

とはいってもそんな大勢の男に好き放題されて、十月十日誰の子とも
おぼつかない子供を孕まなければいけない女性の苦悩は並大抵では
なかったでしょう。
そこで女性達が鬱憤晴らしのためか、それとも本当に男達に復讐しようと
したのかは分かりませんが、作り出したのがハカソヤだそうです。

作り方は…聞いてておいおいと思ったんですが、死産で生まれた女の子の
膣に、産婆さんが木綿布を巻きつけて指をぎゅっと突っ込むんだそうです。
血が染み出たら、布をねじり絞って全体に血の染みをうつす。
それで一人でも多くの人にお守りが多く渡るようにしたんだそうです。
血のついた部分が入るように、お守りに入る程度の大きさに切って出来上がり。
これがハカソヤの中身になります。
このハカソヤはいわゆる女性の貞操のお守りです。
強姦や望まぬ妊娠で悲しむことがないよう、おそそ(女性器)が血を流すことの
ないよう、幸せな破瓜を迎えられるようにという願いがこもっているそうです。

でもひどいのが、死産の子が少なくなると、強姦で生まれたり父親が誰だか
はっきりしない女の子でもやってたんだそうです。
確かに、男達にとっかえひっかえ抱かれる社会で、幸せな初体験をしたいって
望む人が多いだろうなってのは分からないでもないけれどその子たちの幸せは…。

続く