[花束]
前頁

翌朝、母親から「あの橋にはもう行くな」と言われた。
母ちゃん霊感持ちか?と意外に思いつつ、理由を訊くと・・・
「あの橋の近所の○○さんがね、昨夜橋の上で何かが燃えてるのを
見たんだって。放火魔みたいなアタマのおかしい人の仕業かもしれないから、
もう一人で行くのやめなさい。」
(その燃えていた「何か」って・・・)
俺は昨日見かけた枯れた花束のことを母親に話した。
(流石にバケモンのことは言わないでおいた・・・)
「じゃあその花束が燃えてた・・・?でもそれだとハナシがおかしく
なるんだよね・・・」
母親が付近住民のハナシを整理した限りでは、炎は昨夜数時間にわたって
橋の上で燃え続けているのが目撃されていたそうだ。
―枯れた花がそんなに長時間燃え続けるものだろうか?

疑問に思った俺は、その日の学校帰りに、もう一度橋まで行ってみる
ことにした。
流石に一人では恐くて無理だ。部活仲間を一人巻き添えにして、
通学用の自転車を二人乗りして現場へ向かった。

橋に到着。時間帯は前日来た時とほぼ同じで、辺りは薄暗い・・・
「おっ、おい!あんまそれ以上進むな!」
運転する友人に呼びかけ、橋の中間点から20メートル程離れた所で、
自転車を止めさせる。いきなり接近するのは危険だ。
「ハイハイ、言われなくたって、俺こんな自殺スポット来たくねぇよ・・・」
元来ビビリ屋の友人である。
「わるいねw でさ、あそこの辺で何かが燃えてたんだと思う。何か見える?」
ポイントを指差す俺。薄暗い闇に目を凝らす友人と俺。
いつの間にか風が吹き始めた。
「あの中間点?・・・モロ何か落ちてんじゃん!うわっ、キモッ!何あの白いの!?」
雑誌くらいの大きさの、白い紙だろうか、橋の歩道に沿って何枚も並べて
置かれているようだ・・・
不思議である。風に吹かれてはためいているのに、その場にとどまって
飛ばされない紙の列。思わず歩み寄っていく俺と友人。
(・・・真っ白な・・・紙・・・?)
昨日見た、花束の包み紙の残骸のようにも見える。

紙から数メートルも位置まで近寄ると、紙が飛ばされすにいる理由がわかった。
―紙が釘で打ち付けてあった。歩道の地面に。
地味に異様な光景・・・俺と友人、愕然。
「・・・この紙、何か描いてね?」
友人が言う。確かに、紙がはためく度に、地面に伏せてある面に、
何かが描いてあるのが見える。
―ここまで来たら・・・
俺は思い切ってその紙を釘から剥がし取り、めくって裏を見た。

真っ赤な手形がそこにあった。

真っ白な紙の中心部に、赤ん坊程の小さな手形が、紅い色で
べったりと映えており、手形の中心部には、釘が突き刺さっていた穴がある。
「・・・何これ?」
友人も既に他の何枚かの紙を、釘から外して眺めていた。
「こっちも手形、あと足形・・・と変な絵だよ。」
同じく小さな真っ赤な手形、そして足形と・・・鳥だろうか?
紅色の単純な線で構成された、古代壁画チックな絵であった。
その鳥の目の部分に、釘穴の跡・・・

「あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!」

足元の欄干で、女の頭部が絶叫していた。
欄干の隙間に、異様に細長く変形した青白い女の頭部が挟まって、
大口開けて絶叫していた。濡れた長髪に覆われ、口以外は見えない。
歯が異様に白かった。胴体が欄干の外側に、だらりとぶら下がっている。
「ぅおあ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!???」
俺達も絶叫。女の頭部は俺と友人の間に出現したため、俺と友人は
それぞれ正反対の方向に全速力で逃げた。自転車放置で。橋の端まで。
何者かが追ってくる気配は無い。叫び声もしない。
立ち止まって友人に携帯を掛ける。
「逃げた!?お前無事逃げられた?」
息を荒げながら友人が応える。
『平気だけどさ!な、なによアレ!?どうしよ!俺どうしよ!??』
友人は現場に自転車を放置してきてしまったこと、自宅が逃げた方向とは
反対なので、また橋を渡らねば帰れない事実にテンパりまくっていた。
携帯の時計は8時を回っている。橋の向こうは暗くて見えず、
友人の様子も分からない。更にこんな時に限って、車が一台もやって来ない・・・
「わかった、じゃ助け呼ぼう!お前の自転車壊れたとでも嘘ついて、
親でも友人でも呼び出して車持ってきてもらうんだ!俺もやってみるから!」
いやだ!こっち迎えにきてくれ!と喚く友人をなだめ、携帯を一度切り、
母親にダイヤルした。
―ツーッ、ツーッ、ツーッ・・・
繋がらない・・・てか呼び出し音さえ鳴らないということは・・・
画面を確認。「圏外」の表示。
はぁ!?
(じゃあ何でさっき俺は友人と・・・)

続く