[炎と氷]
前頁

それから一週間、彼女は正に色情狂だった。
明らかに疲労困憊しているのに何度も何度も俺を求めるのだ。
俺が「導引」を掛けずに交わると気が狂ったかのように「『あれ』やってよお〜」と迫るのだ。
彼女は仕事を休み、飯を食う時間、眠る時間も惜しいといった感じで俺を求め続けた。

一週間目の朝、同じベッドの中、隣に眠る彼女を見て俺はゾッとした。
剥き立てのゆで卵のようだった彼女の肌は張をなくし、目尻に皺が生じていた。
弾力があってプリプリとした感触だった自慢の乳は、ハリを失ってフニャフニャした感触になっていた。
そして、何より衝撃的だったのは、綺麗なダークブラウンの髪の根元が数ミリだったが明らかに白髪となっていたことだ。
俺は目を覚まし、また俺の体を求めようとした彼女に「仕事の斡旋で人に会う約束がある。今度は店に行くから、またな」と言って、彼女の部屋から逃げた。

数日後、彼女の店に電話をすると、過労で倒れて暫く休むと言う事だった。
数週間後、郷里を離れてから彼女の部屋に電話したが、その番号は既に使われていなかった。
店に電話すると彼女は退店してしまっていて、結局それっきりになった。

俺はそのことがあってからヨガや密教関連の書籍を何冊か読んだ。
マサさんの呼吸法はヨーガの物に非常に似ていることが判った。
性エネルギーの話も疑問点は多々あるも、合致する部分は多いと思った。
そして、最も驚いたのは、後に有名になった(当時も有名だったが)ヨーガ・密教系のあるカルト教団の存在だった。
その教団の教祖や幹部は、大金を取って何百人もの信者にマサさんが行ったのに似た儀式を行っていた。
マサさんの儀式を受けた俺だから言える。
あの儀式は術を施す者の気力・生命力を根こそぎ消耗させるもので、一人に施すのにも多大なリスクを伴う。
受ける者、施す者双方にとって命懸のものだ。
適性に欠けたPは、結局ほかの術を受けている。万人に通用する、効果があるものではないのだ。
だが、他方で、教祖は身の回りに何人もの女性幹部を侍らせ、子を設けていた。
死刑判決を受け拘置所にいる彼は発狂した状態だと聞く。
案外、彼の教団で行っていた「行」は、全くのインチキという訳でもなかったのかもしれない。
後に住職に聞いた「『行』を齧った信者が『魔境』に落ちた新興宗教団体」の一つに彼の教団も含まれていたからだ。
彼は、多数の女性幹部を利用して房中術を行っていたが、その強い「煩悩」により自滅し発狂したと考えると俺には納得できる点が多いのだ。

今日はここまでにする。
続きは後日に。

終わり


次の話

お勧めメニュー4
top