[和解]
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アリサに付き纏っていたストーカーの方は割りと簡単に捕まった。
二度と近付けないように徹底的に痛めつけるのが俺の流儀だ。
恐怖を植え付けなければその場凌ぎとなり、更にストーカー行為は悪質化する。
「朝鮮式」のヤキを入れられた男は、その後はトラウマから便所の「電球」を見ただけで恐怖に震える事だろう。
まあ、今回のストーカー男はそれでも運がいい。
アリサに危害を加えていたら・・・「電球」ではなく「ポッキー」や「プリッツ」を使っていただろう。
免許証を奪い、勤務先その他の個人情報を吐かせ、写真を撮り、誓約書と300万円の借用書を書かせた。
法的には意味のないものだが、もし、再びアリサの身の周りに姿を出したら借用書をヤクザに回し、ストーカー行為の事実を妻子と職場にばらすと脅した。
当分、まともに喋る事も出来ないであろう男は首をガクガク振りながら従った。

とりあえず、俺の仕事は終った・・・だが、恐らく次があるだろう。
次に来るのは、自分の身を守る事は出来ても、祟りや呪いの類を「祓う」術を持たない俺にはどうしようもないものだが・・・
だが、俺はアリサにトコトン付き合うつもりでいた。
俺は「何かあったら遠慮なく連絡をくれ。いつでも飛んで行くから」と言ってアリサと別れた。
そして、予想よりも早く、アリサから救いを求める連絡が入った。

アリサからの連絡を受け、俺は夜の国道をバイクで飛ばした。

部屋に着き、インターホンを押すと恐怖に青ざめた顔をしたアリサが出てきた。
化粧をしていないアリサの顔は相変わらず美しいが、昼間より可愛さが増して見えた。
ストーキングする男の気持も判らなくもない・・・

アリサは俺を部屋に招き入れた。
よく整頓された広めのワンルーム。
俺はアリサから話を聞いた。

アリサの話では、俺がストーカー男をシメてアリサの元から離れてから、常に何者かの「視線」を感じるようになったのだと言う。
かなり気にはなっていたのだが、視線に「悪意」を感じなかったので、俺には連絡せずに我慢していたらしい。
しかし、その晩に異変が起きた。
ベッドで就寝中のアリサは、夜中に人の気配を感じて目が覚めた。
部屋の隅に誰かがいる!
しかし、金縛りにあって体は動かず声も出なかった。
恐る恐る立っている人物の顔を見ようと視線を移した瞬間、金縛りは解けた。
灯りを点け、気持ちを落ち着けようとしたアリサは、何者かの強い視線を感じてベランダの方を見た。
アリサが見たベランダに人影があった。
恐怖に駆られたアリサは、真夜中だったが、俺の元に助けを求める電話を掛けたというのだ。

後日、念の為、俺はきょうこママに頼んで店の子達の寮として借り上げている部屋の一つを提供してもらった。
アリサの希望もあって、暫く24時間体制でガードする事になった。
昼間は事務所の応接室や駐車場の車の中で仮眠を取り、帰宅してからアリサがベッドに入るまで寝て、朝まで寝ずの番をした。
昼間、事務所で仮眠している時、帰宅してアリサの近くで寝ている時、アリサの言う何者かの「悪意のない視線」を俺も感じることが出来た。
靄に包まれたかのような漠然とした夢の中で、俺は視線の主を目にしていた。
だが、目が覚めると、夢の中で視線の主を目にしたことは思い出せるのだが、その姿は思い出せなかった。

正直な所、アリサのお陰か?蟲のような魍魎が絡み着いてこない、アリサとの共同生活は俺にとって快適なものだった。
しかし、その晩は違っていた。

アリサが眠る横で、俺はスタンドの灯りで雑誌を読んでいた。
すると突然、猛烈な眠気が襲ってきた。
「来たな!」と思って、俺はマサさんに習ったやり方で「気」を「拡げて」、アリサと自分を包むようにイメージした。
すると、「コロコロ」と変わった鈴の音が聞こえてきて、視線を上げた俺の前には、50代半ば位の髪の長い女が立っていた。
感じた雰囲気から、俺はその女を生霊だと確信していた。
以前、Pの実家のラブホテルの一室で、俺に切りつけてきた女と同じ「生々しさ」を感じたからだ。
女は俺のことが目に入らないかのように、アリサの眠るベッドを覗き込んでアリサの頬に手を触れた。
俺は「拡げた」気の力を最大限にした。
その瞬間、女の生霊はフッと消え、俺は叫び声を上げていた。

続く