[転生]
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杉村家に戻った俺は、風呂上りの火照った体を縁側で覚ましていた。
すると、杉村氏が俺に話しかけてきた。
「大変だったようですね。ジュリーさん、あの方、昨日も調子悪かったみたいですものね」
「・・・・・・・」
「あなたは日本の方なんですよね。他は韓国の方たち。
どういう縁なんでしょうねえ?
日本で半世紀も無縁仏だった家の供養をする為に韓国の方たちがやってくる・・・
・・・特に、ジュリーさんとは、家の者もそうらしいのですが、何か深い縁を感じます。
昨日も胸を締め付けるような感じが・・・娘に良く似ているからですかねえw」
「杉村さんは輪廻転生って信じます?
私は信じている方なんですけど、縁を感じるということは、案外、前世では近い関係にあったのかもしれませんよ。
こうしてお会いしたのも縁あってのことでしょうし・・・」
「それと、付かぬ事をお尋ねしますが、ご家族に変った形の痣やシミのある方は居ませんか?三角形とかの奴」
「私の腰のところに三角形の痣があります。
子供の頃は随分気にしたものです。
今はレーザーで消せるらしいけど、長年そのままだったし、今更どうこうするつもりはないですけどね。
それが何か?」
「いや、何となく。そんな話をちょっと聞いたものでね」
「ああ、住職さん?」
「はい」

翌日、俺達は杉村家を後にした。
2・3日の後、ジュリーとバーク夫人はカナダに帰国した。
空港で2人を見送った後、アリサを下ろした車の中でマサさんは韓国での事を話し始めた。
「姜時憲はあの日、幸恵を連れて逃げようとしていたんだ。
幸恵の腹の子は時憲の子だったんだよ。
本宅での事件の後、外出帰りに幸恵は時憲に再び襲われて犯された。
だが何故か、その後も人目を避けて時憲を受け入れていたんだが、それは相憲の身代わりだったんだ。
相憲と愛し合っていた幸恵は相憲の子を望んだけど、相憲は善太郎への忠義から幸恵に指一本触れなかったんだ。
それで、身代わりに時憲が選ばれたということだ。
駆け落ちを拒まれて、自分が兄貴の代わりの種馬にされた事を愛する幸恵に言われて逆上して、思わず首を絞めちまったんだよ。
殺す気は無かったんだ・・・時憲は後悔していた。
だが、火を放ったのは自分ではないとも言っていた。
全ての人に見捨てられ、病気で間もなく訪れる死を後悔の中で待ち続けていた彼が、嘘を吐いているとは俺には思えない。
・・・あの老人は相憲に殺される事をずっと望んでいたんだ」

その後、俺はマサさんと飲みに出掛けた。
マサさんが酔い潰れるのを見たのはその時だけだ。
酔ったマサさんは死んだ目で語った。
「善太郎と相憲を裏切って苦しんでいた時憲は、同郷の男に酒の勢いで秘密を話していたんだ。
そいつは時憲に『幸恵を連れて逃げろ、お前の子を身篭った女だから絶対について来る』、と焚きつけたのさ。
あの洞穴に住み着いていた男だ。
その男が善太郎をけしかけて、禁呪の外法を行わせたんだ。
裏切り者の幸恵を使って、憎い相憲と時憲の一族を滅ぼす為のとびっきりの奴をな。
護摩の前の晩、俺は洞穴で・・・あの地蔵のところで儀式をやった。
姜種憲、長くは無いだろう」

マサさんは善太郎が割腹自殺した洞穴で、善太郎の悪霊を「井戸」に送る儀式を行ったのだ。
善太郎の呪いの道具である姜種憲=幸恵もやがては「井戸」の中に・・・
俺も久々に大酒を呑んだ。

半年もしないうちにジュリーからアリサにバーク夫人の訃報が届いた。
末期癌だった彼女の日本行きは、ある時は憎み、殺意まで抱いた種憲を救うための決死行だったのだ。
だが、彼女の願いは叶わなかった。
2年後、ジュリーこと姜種憲は、ルームメイトと共に養父であったマイケル・バークに撃たれて死んだ。
林幸恵と同じ27歳の冬だった。
報せを受けたその日、俺は正体がなくなるまで飲み続け、アリサと初めて寝た。

終わり


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