[ガラス戸の向こう]
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5分ほど経っただろうか、その時いきなりガラス戸が揺れ始めしだいに
激しくなり、もの凄い音でガラス戸を叩く音へとかわった。
二人ともガラス戸を見つめながら後ずさりをして、部屋の奥へ奥へと
進んでいた。奥に行くと、叩く音はピタッとやんだ。
二人で顔を見合わせた次の瞬間今度は、二人の背後の窓が
いきなり開いた。鍵も開けてないのに何故、そう思いながら今度は
二人ともガラス戸の方にたじろいだ。思い切り開いた窓を見つめながら
Bは「なあ、これ洒落にならねーよ部屋から出たほうがいいよ」
そう言った瞬間、ガラス戸の上の窓が割れた。
そうなると当然二人の視線は、割れたばかりの窓に移る・・・・
割れた窓の向こうには、昨日俺が見た奴の目が二人を睨んでいた。
眼球の飛び出したあの目が、俺はBに「逃げるしかねーぞ」
そう言いながら逃げる場所を探した。でもどうしても出口は玄関のみ
あとはいきなり開いた窓しかない・・・行くしかない。

ここは二階飛び出しても大怪我はしないだろう。
部屋の電気を消し、先にBを出してから自分も下を確認せずに飛んだ。
無事部屋から出た二人は、大通りに出てタクシーをつかまえ、一目散に
Bの住むアパートに向かった。

部屋に向かう途中のタクシーの中で二人は会話をする事もできないほど
おびえていた。

Bの部屋に到着し、落ち着こうと思い煙草に火をつけた。
そしてBも落ち着いたのだろう、ひきつった笑いで「あの部屋どうすんの」
そう聞いてきた「無理あそこでは住めない」俺はそう答えるしかなかった。
その晩は二人ともこれ以上の会話はなかった。

一晩Bの部屋で過ごし、その日が土曜日という事もあり週末を
Bの部屋にいる事にした。
二人とも会話もないまま昼飯を食っていると、Bの部屋の電話が鳴った。
Aからだった。今からBの部屋に来たいという、きっと昨日の話が
聞きたいのだろう、Bはそう言いながら受話器を置いた。

それから2時間程経過したころAはやってきた。
Aはやけに嬉しそうに「二人ともここに居るって事は逃げたの」そう言うと
いきなり真顔になり、「情けなさすぎないか」それを聞いたBは怒りだし
「見えねー奴にはわかんねーだよ」今にも掴みかかりそうなBをなだめ
俺はAに「俺達二人が簡単に逃げ出したことあったか、他の奴が
ビビって逃げ出しても俺達は逃げたことなんてねーんだぞ、お前も
それはよく知ってんだろ、その俺達二人がここにいる、それだけで
理解できねーか。」俺もかなり切れそうになるのを、押さえながら
まくしたてた。

そして落ち着いた所で昨日のことを、Aに説明し俺は二度とあの部屋には
戻らない事をAに告げた。するとAは「仮に戻らないとしたら新しい部屋を
借りなきゃいけないんだろ、そしたら自腹で借りる事になるんじゃねーの
馬鹿げてる、何で起こるはずのない現象にビビってそんな無駄金を
使う必要があんだよ」今度は逆にAのほうが切れそうだった。

その時俺は思った、見えない人間、理解しない奴にしてみればどれだけ
馬鹿げた事か、居るはずのない物に対しておびえ、挙げ句の果てには
逃げだそうとしている、Aには理解できるわけないか。
話が進んでいくとAは俺に向かいながら「俺が確認する、それだけの事が
起こるなら俺にも見えるはずだろ、そしたら俺も納得するよ」
Aのその言葉を聞いたとき俺は、あれだけはっきりした現象が起きたんだ
いくらAに霊感がなくても少しは何かを感じ取れるかもしれない。
もしAに見る事ができたら逃げ出す気持ちも分かるだろうと。
でもそれが全ての間違いだった。それから三人は、9時頃に俺のアパートに付くように調整しながら
むかうことにした。それでもBはかなり嫌がっていたのだが・・・。

8時40分思ったよりも早く付いた。心なしかAは楽しそうだった。
階段を上り部屋の前に付いた時Aの表情が変わった。それはまるで
喧嘩の前の表情だった。俺はAに「喧嘩でもしそうな顔だな」と言うと
Bは「やめねーか、やっぱ今までと違いすぎんだよここは」Aは
それを聞いて「いつものBはどうしたよ、喧嘩の時はそうじゃねーだろ
いつものお前らしくもねー」そう吐き捨てるようにいいながら
「ならお前はここにいればいい、開けるよ」Aは俺に相づちをうち
ドアを開けた。何事も無いかのようにAは台所をすぎ、6畳間に
進んでいき、俺もその後を追い部屋に入った。

続く