[ガラス戸の向こう]
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何ともねーじゃん、俺を見ながらAは笑い出した。しかしAの笑いも
そこまでだった、笑っているAを見て俺はたじろいだ。
Aの背にしているガラス戸の向こうであの得体のしれない奴が
またここを見ている、すでに言葉にならない俺はAの背後を指さし
それに気づいたAもガラス戸に視線を移した。
きっと見えたであろうAは俺のほうに後ずさりしている。
後ずさりしてきたAの肩が俺の肩とぶつかる、俺は必死に声をだし
「窓から逃げるぞ」そして二人で窓に向かった、窓は昨日のままで
開いている、二人が動いた瞬間今度は逆に窓が閉まってしまった。
行き場を失った二人は、そこに立ちすくむ事しかできない。
立ちすくして居ると、Aの様子がおかしくなってきている、いきなり
おびえながらその場に座り込んでしまい、「やめてっ、やめてくれ」
そう叫びながら何かを振り払おうとしている。
Aは何を見ているんだ。そう思いAの振り払おうとしている場所を
俺は目を凝らして見ようとしたが、俺には見えない、俺に見えるのは
ガラス戸の向こうに居る奴だけ、Aはまったく別のものを見ている。
俺は必死にAをなだめた、でもどんどん酷くなっている。
Aの普通ではない声を聞いて、Bが玄関を開けてくれた。
とっさに俺はBに「そこの盛り塩をここに投げろ」そう叫んだ。
Bは塩を取り、一直線に投げてくれた、その瞬間得体の知れない奴は
消えた。そして俺はAを担ぎ上げて玄関に向かい何とか部屋を
後にした。
Aを担いだまま階段を下り、一旦その場におろしAの様子を見た。
だがAのおびえはやむことはなかった。
Aの様子を見て俺は病院に連れていくことにした。しかしBは
「医者には何て言うんだよ」泣きそうになりながらいった。
でも俺達にはなにもできない、だから連れていこう、Bをなだめながら
そう言うのがやっとだった。
大通りにでてタクシーをつかまえ、○○病院まで急いでくれ、そう
運転手に告げると、運転手はAを見ながら他のタクシーにしてよ、
それを聞いたBが怒りだし、「てめー乗車拒否すんのかこら」
そう言って運転手の座っている座席を、後ろから思い切り蹴りつけ
運転手も二人の殺気だった顔をみて観念したのか、分かりました。
そう言いながら○○病院に向かってくれた。
病院に着き俺はAを抱えながら、急患受付に向かい事情を医者に
説明した、すると医者は疑わしそうに俺を見ながら、「取りあえず
安定剤で落ち着かせましょう、一晩たてば落ち着くでしょうか」
そう言いながら処置室に向かった。そう聞いた俺とBは安心し
一晩病院で過ごすことにした。
病院の待合室で俺とBは仮眠を取らせてもらい、朝が来るのを
待っていた。
医者に肩を叩かれて俺は目を覚ました。
医者は俺に「どうもおかしな事になった」そう告げると、昨日の事を
もう一度詳しく聞かせてくれと言い、全てを聞き終わった医者は
ため息をつきながら「彼の精神状態が何らかのショックでおかしく
なったかもしれないんだ」そして「これから別の病院に搬送して
詳しく見てもらおうと思う」俺は震えだしてしまった。
これからどうすればいい、Aの親に何て説明すればいいのか
分からないままBと共にAの搬送される病院に向かった。
話が長くなってすまない、この事件の後俺は、Aの両親から
訴えられ警察に尋問された。そして精神鑑定も受けさせられた。
そして今現在俺は、Aの両親に慰謝料として毎月10万の
支払いを続けている。
あれから12年Aとは会話ができないまま。
あの時やめておけばAをこんなめに会わせる事はなかったのに。
心霊現象について俺はこの事件で、色々学んだと思う。
信じられない人にしてみれば、馬鹿げた事でしかない
そして俺はそれを、周りに信じてもらうことは出来なかった。
一部の人には信じてもらえたが、ほとんどは認めない。
それが普通なんだと、そう思う事にして否定もしない
だけど肯定もしない。
以上・・・