[帰省]
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もちろんそれだけで、何かが変わるわけではないでしょう。
しかし、私はよみがえって来たさまざまな記憶と、
あの家で感じた空気、そして彼女の怯えたような様子、
そして何より、私があの夜に見た悪夢、
幼い私が首を絞められていると思っていましたが、
よく思いだしてみると、微妙に幼いころの私と違うような気がするのです。

あれから一年近く経ちました。
彼女とは、東京に戻ってから、時と共に疎遠になってしまいました。
どちらからというわけでもないのです。
お互い、何か避けるように、自然と会わなくなってしまったのです。

私は彼女を愛していましたが、
自分が、もう決して幸せというものに近づくことができないような気がしています、
それで彼女と面と向かうことができません。
今でもたまに、電話がかかってくることがありますが、
彼女はあれからも、あの家でのことを話してはくれませんし、
私からも何もいえません。
話はこれで終わりです。よくわからないと思われるかもしれませんが、
私は自分の思っていることすべてを書くことができませんでした、
怖いのです、彼女があの家であったことを話すことができないように、
私も、自分の家、自分の生について思っていることすべてを語ることはできません。

最後まで読んでくださった方にはこの場でお礼を申し上げておきます。


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