[この世の人じゃない]
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洋子はオカルト好きだけど、しょせん真剣には信じてないんで、
そういう恵美の態度が鼻につくんです。それに、その時は勝手にブックマーク
削除されそうになって、ちょっとむかついて、
「こんなの、どうせみんなネタだし、雰囲気つくって遊んでるだけだからいいじゃん」
って、言ったんです。
そしたら、恵美がモニターのスレッドをじっと見て、スクロールさせながら、
「ううん、違うよ、これほんとヤバイ・・・」って言うんです。
ネタとか作った話ばかりに見えるけど、本物もあるって。

ほんとに霊体験した人がカキコしてんのかって、洋子が聞くと、
「うん・・・・それもある。それはまだいいんだけど・・・」
って、恵美が独特の暗い声出して、
「この世の人がカキコしたんじゃないのもある。それがヤバイんだよ・・・」

「うそ、じゃあ、どれがネタでどれがその『あの世の人からのカキコ』か
恵美にはわかるの?」って洋子は聞いたんです。
そしたら、恵美が、ずーっとスレを見ていって、このレスはネタ、これもネタ、
これは実体験ぽい、これはネタ・・・ってやりだしたんです。
洋子は正直「また出たよ、自称霊感少女が」と心の中で思ったんだけれど、
恵美があまりにも真剣にモニター睨んでるんで、ちょっとそれ自体が
異様な感じで怖かったそうです。
そして、画面をスクロールしてた恵美が、いきなりあるレスを指差して、
「これは・・・これ書いた人、人間じゃないよ・・・」

それは、見てみるとすごく短い文章で、恐怖体験をつづったものでした。
「これが?」
洋子はちょっと拍子抜けしたみたいです。
べつに、それが自分が今まで読んだ話のなかでも、飛び抜けて怖いとか
そんなふうに思わなかったので。むしろ、読み流してたというか、
読んだことも忘れてたくらいでした。
よくあるパターンで、夜中に金縛りにあい、目を開けたらそこに
髪の長い女の人が立ってた、という話です。
なんか、一気にばからしくなって、洋子はそのままパソコンをスリープさせて、
もう遅いから寝ようと、布団にもぐりこんだんです。
恵美はまだそのときは普通だったそうです。

明かりを消して眠りに落ちてから、まもなく洋子は妙な物音で目覚めました。
となりの布団で、恵美が後ろを向いて寝ながら、うーんうーんって
小さくうなってるんです。
すごく苦しそうだったので、「悪い夢でも見てるのかな、もしかして
寝る前にあんな話になったのが悪かったかも」と思って、
起こしてあげようかどうしようかと、そのまましばらく見てたそうです。

続く