[この世の人じゃない]
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わたしは実家の祖母が倒れたというのでしばらく帰省していて、
洋子と顔を会わせるのは十日ぶりくらいでした。
ドアの前に立っている彼女は、なんか、すごく雰囲気が違います。

普段はうるさいくらい明るい子なのに、妙に深刻な顔つきなんです。
目のしたにうっすらクマができて、ひどい風邪でもひいたあとって感じ。
とにかく、わたしは彼女を部屋にあげ、コーヒーを出して、二人でこたつに
足を突っ込みながら向かい合って座りました。

洋子は黙ってコーヒーを半分くらい飲むと、「ネットって怖いよ」と
ぽつりとつぶやき、顔をこわばらせたまま話し始めたんです。

洋子の高校時代からの友達で恵美(仮名)という子がいたんですが、
これが「見える人」なんだそうです。
洋子から話は聞いていたけれど、わたしは普段あまりつきあいないし、
そんなの信じてなかったし、どうせちょっとブサイクだからって
人の気をひくために、そんなこと言ってるだけじゃないかと思ってました。
実際に、洋子が恵美といて不思議な体験をしたことはなかったみたいだし。
一回だけ洋子と他の友達とわたしのアパートに来たこともあるんですが、
人の部屋に入るなり、きょろきょろあちこち見て、「うん、大丈夫」とか
小声でつぶやいてて、変な子だと思ったのをおぼえてます。

とにかくその恵美が、一週間ほど前に洋子の部屋に来て泊まったとき、
一緒に2ちゃんねる見てカキコしてたそうなんです。
独身男性板とかでネナベやって煽ったりして、げらげら笑ってたら、
夜中の二時近くになって、もう寝ようかとしてたとき、
恵美が洋子のブックマークのひとつを見て、「何これ?」ってクリックしたんです。
洋子は一瞬、ヤバイと思ったみたいです。
それはオカルト板のスレだったんで、恵美がまた「霊感少女」ぶって、
ウザくなるから。案の定、恵美の様子が変わって、マジに眉をひそめて、
「なに〜〜〜これ。こんなの見ちゃ駄目だよ〜〜。いつも言ってるでしょ、
こういう話は、面白半分で読んだりするだけでも良くないんだよ。
このスレ、ブックマークから削除しなよ」

続く