[この世の人じゃない]
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そしたら、だんだんうなり声がやんで、かわりに寝言を言ったんです。
「どうして・・・」
ぼそりとそう言ったと思ったら、すぐにもういっぺん、
「どうしてわかったの?」
って、とても寝言とは思えない、はっきりとした口調で、言ったんです。
まだ向こうを向いているけれど、もう起きたのかなと思って、洋子が、
「何のこと?すごいうなされてたよ」
って言ったら、恵美が突然、布団からむっくりと起きあがったんです。
それ見たとたんに、洋子は背筋がゾッと冷たくなって、目を開けたまま
その姿勢で身動きできなくなったそうです。
起きあがって座った恵美の後ろ姿は、ざらりと長い黒髪で
背中が半分ぐらいまで隠れてたんです。
恵美はうなじが見えるくらいの茶髪のショートカットのはずなのに。
それで、白い浴衣みたいなものを着ているんです。
確か寝る前に洋子のヒョウ柄パジャマを貸してあげたはずなのに。
洋子はもう頭がパニック状態でした。
(これは、恵美じゃない!いやだ、なんで、なんで!!)

恵美とすりかわったものは、ゆっくりと振り向きました。
見たくないのに、洋子は目をつぶることができないんです。
身体が硬直したままガタガタ震えています。
電灯を消して、部屋は暗いのに、なぜかそれの姿はやけに
はっきり見えます。
ゆっくりと振り向いたその顔自体は、恵美の顔でした。
でも、異常に目がつり上がって肌は青ざめ、歪んだ口元は、
普段の恵美とはぜんぜん違います。
まるで誰かの顔とミックスされているみたいな、別人が
恵美になりすましているような、そんな感じなんです。
抑揚をなくした恵美の声で、「どうしてわかったの・・・」と言うと、
冷たくにやっと笑いました。
その瞬間、洋子は気が遠くなったそうです。

はっと目覚めたときには、朝になっていました。
隣の布団には誰もおらず、パジャマだけが脱ぎ捨てられています。
どこにも恵美の姿はありませんでした。
恵美の服もバッグもないので、帰ったのかなと思いました。
でも、一言のことわりもなく帰るなんてヘンだし、また昨夜の恐怖が
よみがえってきて、恵美の携帯にかけてみましたが、圏外でした。
昼過ぎに何度もかけたけれど、ずっと圏外。
夕方、実家に電話したらお母さんがでて、まだ帰ってない、とのこと。
ますます怖くなった洋子は、べつの友達に連絡をとって、
その夜から三日ほどは、その子のところに泊めてもらったそうです。

続く