[輪廻]
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しかし、呪われた血により、無惨に殺された女もまた、深い恨みを残し、霊となって
さまよっているのではないだろうか。
私は青森に発つまえに、殺人事件の現場に向かった。
ハッカー(カギ開け道具)を使い、部屋の中に入る。
カーテンを閉めているせいか、真っ暗だ。電気をつけようとスイッチを探したが、
見つからない。ジッポーの火をつける。
部屋いっぱいに広がるおびただしい血痕の跡はそのままだ。
スイッチを見つけたが、電気がつかない。ドアの上部のブレーカーに異常はない。
『おかしいな、外にもスイッチがあるのか?』と思いながらドアのノブを回したところ、
びくともしない。と、そのとき、強烈な寒けが背後から襲ってきた。
振り向こうとしても、体がまったく動かない!
手も足も顔も、冷気にさらされたように冷えていくが、額から汗が吹き出す。
どういうことだ・・・・。
突然、「良介・・・・殺す・・・・殺す・・・・」
低く、しわがれた声が耳もと近くから響いてきた。
その方向に目を移すと、なんと、殺された女の首がぴったりと私の肩に乗っていた。
トランクの袋から飛び出した、あのむごたらしい顔である。
あまりの怖さに全身の力が抜けた・・。もう見たくない。目を強くつぶると、青白い光りが
回っているのが瞼に映った。瞼の力が抜けていく・・・・。
そっと目を開けると、血まみれの顔が私の鼻先にあった。
女の顔。それがだんだん男の顔に変わっていく。ぱっくりと割れた額に、小さな髷が見える。誰だ、おまえは・・・・。
得たいの知れない霊とのにらみ合いは、しばらく続いた。私は、知っているお経を
すべて唱え、消えてくれることを祈った。しかし、どんなにあがいても金縛りは解けない。
どれほどの時間が経ったろう。
怖さを通り越し、私の中に成仏できない霊に対する哀れみの気持ちが広がった。すると、
男の生首は、苦しそうに『ウ〜・・』とうめきながら、スーッとかき消えていった。
突如、部屋の電気がついて、私はうしろに引き倒された。
腰が抜けたのか、足に力が
はいらない。また電気が消えたら・・・という恐怖がこみ上げる。
私はなんとかドアのノブに手をかけた。開いた・・・。
やっとの思いでマンションから出た私は、何度も吐きながら自宅へ戻った。
冷静さをとり戻すと、いくつかの疑問が頭に浮かんだ。
殺された女の霊が出たことは納得できる。しかし、髷を結った男は誰なんだ?
霊が呟いた『良介』という名まえも気になる。
続く