[六年一組]
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クラスメイトの反応にホッとしつつ、牧村は背負っていたリュックを降ろした。クラスメイト
たちは遠足の期待に浮かれ、バスの到着を今か今かと待ちわびていた。だが、牧村にはまた見えて
しまった。クラスメイト一人一人、全員の首にロープが巻かれている。女子も例外ではない。全員
にである。
 誰一人、そのロープに気づかない。牧村にしか見えないのだ。クラス全員の首にロープを束に
して持っている者。それは内木だった。
「う、内木くん・・・」
 空中に浮かぶようにして、内木の姿がある。ロープの束を持ち、笑う内木の顔がある。これから
自分をイジメぬいた者たちを皆殺しに出来る喜びか、内木の顔は喜色満面である。内木は牧村を
見ない。クラスメイトたちの首に巻いたロープを嬉しそうに見つめているだけだ。牧村は自分の首
にもロープがあるかを見た。牧村の首にロープは無い。しかし彼は狂ったかのように、首から
ロープを取り払うべく暴れだした。

「う、う、うわあああ!!」
 突如に暴れだした、牧村にクラスメイトたちはあっけに取られた。
「牧村、どうしたんだよ?」
 首に内木のロープが巻かれていると知らない牧村の友は怪訝そうに牧村に詰め寄った。

 その言葉に、牧村が顔を上げたときである。その友の背後には、まだロープの束を持ち笑って
いる内木が牧村を見ていた。牧村と内木の目が合ったのである。

「ギャアアア!!」
 牧村はリュックも置きっぱなしで、教室を飛び出していった。恐怖のあまり涙は流れ、小便と
大便が垂れ流しであった。牧村は半狂乱状態で家に駆けた。まだ終わっていなかった。内木の
復讐は終わっていなかったのである。
 その日、六年一組を乗せたバスは山の側道を走行中にガードレールを突き破り、谷底に落下した。
 運転手、バスガイド、そして六年一組全員が死亡した。

 ついに牧村以外は全員死んでしまったのである。牧村は怯えた。
「次はボクだ・・・ 次はボクだ・・・ 内木くんは最後にボクを殺す気なんだ・・・」
 内木の復讐に怯える日々を牧村は送った。いっそ自分も死んだら楽になれると考えたほどである。
 しかし彼は自分で死ぬことが出来なかった。

 そして十年・・・

 牧村はその後無事に小学校を卒業し中学、高校と進んでいった。もはや彼の頭の中にも内木の
存在は徐々に薄れてきていた。牧村は現在二十二歳となっていた。
 そんな彼の元に、一通の不思議な手紙が来た。牧村はその手紙を見て愕然とした。
『六年一組同窓会のお知らせ』

「そ、そんなバカな!」
 牧村がそう思うのは無理も無かった。六年一組で生きているのは彼だけである。あとは全員が
死んでいるのだ。その彼の元にどうして同窓会の通知が来るのか。

 しかし、彼は同窓会の会場に向かった。牧村にはこの同窓会の知らせを無視する事が
出来なかった。何かに手招きでもされるかのように、牧村は会場へと歩いた。
 会場はかつて牧村が通った小学校。忌まわしい思い出ばかりのこの小学校へ牧村は卒業後一切
近寄らなかった。しかし今、牧村は再び校門をくぐった。
 時間は深夜0時。同窓会を行う時間としては適当ではない。それでも牧村は行った。
 季節は寒い冬。牧村はコートの襟を立て、白い息を吐きながら、会場の教室へと歩いた。
 カツーンカツーン。深夜の校内に牧村の靴音が冷たく響いた。

続く