[六年一組]
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「バカヤロウ! お前ら何言っているんだ!」
 牧村たちの話に蛭田が入ってきた。彼も少なからず怯えの表情が見える。
「こ、腰抜けは死んだって腰抜けだ。何もできやしねえよ。ハッハハハ」
「ん?」
 牧村には蛭田の首に何かが見えた。
「な、何だ?」
 目を凝らして見つめると、それはロープだった。しかし、蛭田も周りもそのロープに気づかない。
牧村にしか見えないのだ。ロープは蛭田の首に巻かれ、その端末は上に伸びている。そしてその
端末を握っていた者。不気味な笑みを浮かべて、ロープを握っていた者。内木だった。

「うわあ!」
 牧村はその光景を見るや、脱兎のごとく教室から出て行った。寒くもないのに歯がガチガチと
震え、恐怖のあまり失禁もしていた。

 そしてその日、蛭田は下校中に四トントラックにはねられ、即死した。

 理科準備室からは、まだ内木の声がかすかに聞こえていた。
(ころしてやる・・・ みんなころしてやる・・・)
 クラスの誰もが口には出さずとも、思っていた。次に殺されるとしたらアイツらだ、と。
 蛭田の子分だった二人の少年、高橋と中村。二人は朝から怯えた表情をしていた。彼らも蛭田が
死んだのを見て、内木の復讐の呪いがどれだけ恐ろしいかを知った。今度ころされるのは自分
たちだ。彼らの冷や汗は止まる事はなかった。そして牧村には再び見えたのだ。高橋、中村の首に
ロープが巻かれているのを。そのロープを笑みさえ浮かべて握る内木の姿を。

 そしてその日、高橋はグラウンド整備用のローラーに巻き込まれて即死。中村は清掃の時間中、
三階の窓を拭いているときに転落し、死亡した。

 牧村は翌日から学校へ行かなかった。自分の部屋に閉じこもり、出ようとしなかった。
(次はボクだ! 次はボクなんだろう! 内木くん!)
 布団の中でブルブルと震える牧村。死の恐怖に押しつぶされそうだった。
(あの時、『知りません』と言ったのは謝るよ! ごめん! だから助けて! ボクをころさない
でよ内木くん!!)

 しかし、蛭田、そしてその子分の高橋と中村が死んでより、理科準備室から内木の声は聞こえなく
なった。また死者も出ず、内木の自殺から異様な雰囲気であった六年一組の教室に静けさが戻りつつ
あった。牧村も落ち着きを取り戻し、内木の復讐の呪いは終わったのだと解釈し、再び学校に登校
した。
 この日は遠足である。集合場所でもある一組の教室に牧村は久しぶりに入った。今までの不登校の
負い目を拭い去るかのように牧村は元気良く教室のドアを開けた。
「みんな、おはよう!」
 クラスメイトたちは久しぶりに登校してきた牧村を温かく迎えた。牧村が内木の復讐を恐れている
のは誰もが知っている。
「よう牧村、久しぶり!」
「何よ、牧村くん、少し太ったんじゃない?」

続く