[六年一組]
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だが、その牧村の肩を蛭田が押さえた。
「牧村」
「う・・・」
「このクラスで内木の味方をする者はお前だけだぞ」
 いつの間にか、クラス全員が牧村を睨んでいた。驚くことに、女子に至るまで全ての
人間が牧村を睨んでいた。
「テメエも内木と同じように総スカン食らいてえのか?」
「うう・・・」
 蛭田に睨まれ、牧村は動けなかった。これ以上、内木の味方をすることは許さない。蛭田は
そう言っている。牧村は内木にエンピツを渡せなかった。やがて担任の岩本がやってきた。
 答案用紙は配られ、今は裏返しで机の上に置き、岩本の「始め」の指示を待つだけである。
 その前に岩本は一人一人の机を見て回った。
「どうだ。エンピツは削ってきたか。・・・ん?」
 岩本は内木の机で止まった。
「なんだこのエンピツは!」
 内木は勇気を出して言った。
「た、高橋くんに折られてしまいました・・・」
 そう蚊の鳴くような声で訴えた。岩本は高橋を見た。
「高橋、本当か!?」
「ええ〜 ボク知りませんよ〜」
 うすら笑いを浮かべて、高橋は否定した。
「じゃ、じゃあ牧村くんに聞いてください」
「おい、牧村、お前知っているか」
 内木は牧村を祈るように見つめた。同時にクラスの睨む視線が牧村に集中する。ここで
内木を弁護すれば、明日から自分も内木と同様にいじめられる。そう思った牧村の口から
出た言葉。

「知りません・・・」

その言葉を聞いて内木の顔から血の気が失せた。
「そ、そんな・・・」
「バカ者!」

 バシィン!!

 追い討ちをかけるように岩本の平手が内木の顔に叩き込まれた。
「クラスメイトに責任を押しつけるなんて最低な行為だぞ! お前はテスト白紙で出せ!!」
 クラス中の嘲笑が内木の耳に響く。内木の頭の中はもう絶望で一杯だった。

 そして何事もなかったようにテストは始められた。筆記用具のない内木にはテストに
答えを書くことができない。真っ白な答案用紙の裏面をただ見つめていた。やがて彼は回り
に見つからないように、折れたエンピツを自分の右手に刺した。心の中で彼はこう叫んでいる。
「ちくしょう! ちくしょう! ちっきしょう!!」
 声にならない叫びを、自分の手に叩きつける。彼の右手は血に染まった。
「ううう・・・」
 血に染まった自分の手のひらを内木は見つめた。

 テストも終え、その日の授業はすべて終えた。牧村は内木に合わす顔もなく、すばやく
帰ってしまった。蛭田たちは岩本に「高橋くんに折られた」と言った事が気に入らなかったらしく、
内木を袋叩きにするため彼を探した。しかし内木はどこにもいなかった。まだ机には彼の
ランドセルもある。しばらく内木を待ち伏せしていた蛭田たちだったが、夕刻を過ぎても
内木は現れず仕方なく彼らも帰ろうとした。
「今日の分も、明日やってやればいいじゃん。帰ろうぜ」
 子分二人もそのまま蛭田に続いて帰宅した。

続く