[六年一組]
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その経緯も手伝い、牧村の危惧していた通り、徐々にイジメはエスカレートしていった。
休み時間、内木がトイレに行こうとしても行かせてもらえない。
 授業中、がまんの限界にきていた内木は股間を押さえ、苦しんでいた。彼の後ろの席に座る
蛭田が言う。
「おい、内木、授業中に便所なんて行くなよ。みんなが迷惑するだろ・・・」
 だが内木には、蛭田のその言葉に返事ができるゆとりが無かった。
「おい、分かってんのかよ!」
 とがったエンピツの先を内木の背中にザクリと刺した。
「ヒッ!!」
 彼はたまらず、小便を漏らしてしまった。
「ああ、汚ねえ! 先生、こいつションベンもらしたぜ!!」
 かねてよりの計画だったのか、牧村の止める間もなく、すかさず蛭田の子分、高橋と中村が
内木のズボンを下ろして下半身を露にしてしまった。

「アッハハハハ!!」「きたなーい!」
 心無いクラスメイトたちの嘲笑と侮蔑の言葉が内木を切り刻む。
「あああ・・・」
 内木はしゃがみこんで、泣いていた。牧村は、無念そうに彼を見つめる。彼にはこの状況で
内木をかばうほどの度胸は無かったのである。

 イジメは蛭田と子分二人だけではなく、やがてクラス全体に伝染していった。
 給食の時、当番の配膳に内木が並んでいると、当番の者はわざと内木の食事を床にこぼし、
それを土足でふみつけ、それを皿ですくいあげ、彼に渡した。戸惑う彼に、当番の者は複数で
内木の口をこじ開け、無理やり食べさせた。
 そのおり、いや彼はいじめられている時、牧村にすがるような視線を見せた。しかし、牧村
にはクラス全員を敵に回しても内木を救う度胸は無かった。その視線に気づかないふりをして、
そして自分は決していじめる側に転じないことだけで精一杯であった。彼は知らない。
 イジメを見て止めなかった者。その者もイジメを行っていると同様だということを。

 そしてある日、この日はクラスで実力テストが行われる日であった。担任の岩本は前日に
エンピツを削ってくるようにと生徒たちに伝達していた。内木はその言いつけを守り、ちゃんと
エンピツを削ってきた。
 蛭田の子分、高橋がそんな内木の筆箱を開けた。
「どうだ、内木ちゃんとエンピツを削ってきたか」
 高橋は削ってあるエンピツ数本を握った。
「あ、高橋くん、何を」
「なんだよ、削ってねえじゃんかよ!!」

 ボキィ!

 高橋は内木のエンピツすべてを叩き折った。
「ああ!」
 この時は牧村も勇気を出した。自分の削ったエンピツを持った。
「内木くん! ボクのエンピツを!!」

続く