[作り話]
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それ以来、当然というか、ヤッちゃんと顔を合わせなくなった。
俺はヨシ君と二人で遊んでいたが、
段々気まずくなり、少しずつ遊ぶ回数が減っていた。

夏休みが終わり、学校が始まったが、
ヤッちゃんは登校してこなかった。
その頃にはもう噂は広まりきっていて、
ヤッちゃんが登校しない理由は、
暗黙の了解で誰も触れる事をしないようになっていた。

俺は毎朝ヨシ君とヤッちゃんと3人で登校していたので、
それからはヨシ君と2人で登校する事になった。
取り除けないしこりを持ちながらも、
俺達は精一杯楽しくなるよう、登校していたと思う。

だが、ある日突然、ヨシ君が変わった。
登校の待ち合わせ場所に行くと、
下を向いて俺を待つヨシ君。

「おはよう」と言っても、返事は無く、
「どうしたの?」と言っても、返事は無い。
だが、以前と同じように登校する。
変わったのは、口数が異常に減った事。

先の事件が関係しているのではないか。
と思うのは、子供でも間違いなく感づく。
俺はしつこく彼に詰め寄った。

何があったのか
ヤッちゃんが関係しているのか
あの廃屋が関係しているのか

しまいには、話してくれないなら絶交する。などと、
なんとも惨い事も言った。

するとしばらくして、彼がぽつりぽつりと話し始めた

ここから先は俺にも真実のほどは分からない。
だが、ヨシ君がこう語った。

先日彼は、ヤッちゃんの姉と同行した。
姉はヨシ君と同い年で、彼女からの願いで、
あの廃屋へ連れて行ったのだという。

だが、彼女は少し知恵遅れ的な様子で、
事の重大さは分かっていなかったのではないかと思うが、
とにかく2人で廃屋へ行ったのだと言う。

そして扉の無い玄関をくぐると、ヤッちゃんがいたらしい。
天井を見上げたまま、
「アーーーーーーーーーーーーーーー」
と気の抜けた声を出し、
その視線の先には、ヤッちゃんの母親がいたと言う。

当然すでに現場にヤッちゃんの母親の遺体があるわけもなく、
今起きている状況の異常さに、ヨシ君は逃げ出そうとした。
だが、後ろにいたヤッちゃんの姉がヨシ君の手を引っ張り、

「誰にも言っちゃ駄目だよ」
と言ったらしい。
誰にも言ってはいけない話を俺にしてしまった。
俺が絶交するなどと言ったばかりに。

そして全て話したヨシ君は泣きじゃくって、
「どうしよう どうしよう」と喚いた。

俺はどうする事も出来ず、
ひどい事をしたと思うが、家へと逃げ帰った。

登校拒否児となってしまったヤッちゃんは、
どこかへ転校してしまい、それ以来会っていない。

そうしてヨシ君とヤッちゃんとの関係は、
一気に疎遠になってしまった。


それから数年がたち、俺が高校生になってしばらくした頃だった。
久しぶりに、ヨシ君から電話があったのだ。

小学校低学年の時から数えて、
もう何年も話していないので、何を話していいか分からない相手だ。

久しぶり。と挨拶して以降、会話が続かない。
そうこうしていると、ヨシ君が切り出した。

「この間さ。マリちゃんから電話があったんだ。」

俺は何のことか全く分からなかったが、
記憶を総動員し、マリちゃんがヤッちゃんの姉だという事を思い出した。
そしてヨシ君は続ける。

「前話した空き家の事を覚えてる?
 マリちゃんが○○ちゃん(俺の名前)にあの事を話したのを怒ってるんだ」
という。

つまり、彼女は何故か、ヨシ君が俺に、
廃屋で体験した話をした事を知っていて、
誰にも言っちゃ駄目だと言ったのに話したのを怒っていると言う。

「どうしたらいいかな?マリちゃんが怒っているんだ。
 俺、マリちゃんに言わないでって言われたのに。
 どうしたらいいかな?」

何度も何度も、壊れたテープレコーダーのように繰り返すヨシ君。
俺は怖くなって電話を切った。
二度とヨシ君からは電話はかかってくる事は無くなった。

何故かと言うと、その後しばらくして、
ヨシ君は猟銃で頭を撃って自殺したからだ。

何故猟銃を所持したいたかは分からないが、
うちの親の話によると、ヨシ君の親が趣味で猟をしていて、
それでその猟銃を使ったのだと言う。

そうして、俺の中での○○神社廃屋事件は幕を閉じた。

続く