[印]
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Bがようやく熱が下がり、回復して学校へ行ってみると。
その、招いてくれた旧家の子が、B回復の前日に、亡くなっていたそうです。
B母とBが連れ立って葬儀に行ったら、Bたちを見た同級生母が
凄まじい勢いで喚き始めたと。
『何であんたが生きてるんだ』『どうしてうちの子が連れてかれるんだ』
『××に行くのはあんたのはずだ、印はどうした』
などなど正気でない調子で喚かれ、B母が例の白い衣装を返そうとすると
同級生母はさらに激昂して、うそだ、こんなのはうそだと喚きまくり、
BとB母は焼香できずに帰ったそうです。
「あの時は怖くて泣いちゃったけど、後でお母さんが言ってたんだよね。
 『自分の子供が自分より先に死んだりしたら、誰だって悲しくておかしくなるのよ。
  Bに何かあったらお母さんだってそうなっちゃうよ。
Bが悪いんじゃないから気にしないでね』って。今は本当にそうだろうなって思う」
……で、Aが俺にしてくれた補足説明(含むAの推測)。
「……Bの好きな怪談って、車とかエレベーターとかばっかりだからかな。
何で気がつかないの?って正直思うけど。
……白い着物に白い被り物って、それ、お姫様でも巫女さんでもなくて、
花嫁さんなんじゃないの?」
言われて初めてゲッとなった俺も、相当鈍いと思います。

『輿』に乗って、神様の居る『社』に運ばれて、
酒とお供えと一緒に1人で残される
『白い着物に白い被り物』の娘っていったら、それはつまり。
「……専用の乗り物が実際にあるくらいの古いきちんとしたお祭りなら、普通、
大事な役を新参者の子供なんかに頼まないよね。同い年のそこの家の子がいるのに。
……その頃はBのアレも小さかったのかもしれないね。
熱出して寝込んじゃったってことは」

B一家は、しばらくして、また転勤のため町を出たそうです。
それまで例の同級生の家には徹底的に避けられ、またそこの家は(B母いわく
「不運なことに」)事故だか病気だかが相次いで、上の子(死んだ子の兄弟)が
入院したりしてたために忙しそうで声をかけられず、
例の白い衣装は返却できずじまいで、今もBが持っているそうです。
Bは、子供をなくした母親は辛いんだ、悲しいんだ、ということを感じて衝撃を
受け、今も片付けや引越しなど何かの折にその衣装を見るたびに切なくなるそうです。
「お見舞いで私がこの衣装もらっちゃってなかったら、あの子は助かったかなって
 思ったりして。何だか捨てられなくて、ずっと持ってる」

………もっともAの意見では、その古びた白い着物は、
「マーキング、だと思った。何となく、ぱっと見たとき」
だ、そうでした。
どっしりした絹地で、子供が着れば長く裾を引きずるだろうサイズの
その着物には、全体に、細かい精緻な何かの文字のような文様のようなものが
ミッシリ織り込まれていたそうです。
そして、ほんのかすかに残るたきしめた香のような香りと共に、
妙に「生ぐさい」(とAは表現してました)気配と言うか、
あっちの世界のもののにおいがした、と。

Aの言では、同級生家は、Bが生還した上に中々「連れて行かれない」ので、
駄目押しに花嫁の印の婚礼衣裳をB家に持ち込んだのではないか、
と(完全に推測だけど、と言っていました)。
けれども社の主は、何か(多分、Bのアレ)に阻まれて結局はBを連れて行けず、
そして社の主が暴れた結末がそれだったのではないか……と。
……もしそうだとしたら、と考えて、非常に不快な気分になりました。
Bたち新参者の子を家へ誘った同級生家の子達は、どこまで知っていたのか。
そしてまた、思惑が外れて自分の子が連れて行かれてしまった母親が、
どんな気分だったのか。
とにかく後味の悪い話だと思います。

なお、B母は祭りの夜に撮影した写真を持っているそうな。
「私も持ってるよ、見る?」とBが見せてくれた写真は何枚かあり、
AはBに頼んで一枚借りてきたそうで、ご丁寧に俺に見せてくれましたorz
……白い着物の幼いBに、巻きつくような何本かの黒い線が写ってる写真を。
「ピンボケの木の枝が映り込んじゃって、心霊写真みたいでしょ」
とBは言ったそうですが、木の枝よりは黒いでかい手がBを掴んでるように見えました。
ついでに、Bの姿の輪郭の外まわりがグレーっぽくぼんやりして見えるのは、
「白い着物を着てるから」(B談)と言うよりは、あの井戸のミニハウスの一件で
見たモノの掴み所のない姿に似ているような……。

……B母は、数年前、友人にさそわれ、ちょっとしたおふざけで、
霊能者にその写真を見せたことがあるそうです。霊能者は、
「この少女は、強い強い山の霊に魅入られています。気の毒ですが、
次の誕生日を迎えることはないでしょう」
と言い切ったとか。
「今は大学生ですよーって言うのが気の毒で、はあそーですかって帰ってきちゃった」
とB母から聞いて、2人で吹き出しちゃった、とBは言ってたそうです。

憶測ばかりのハッキリしない話でなんだが、以上です。


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