[遠吠え]
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1Kの狭い部屋だから玄関は丸見え。小さなキッチンが横についているだけ。
当然真っ暗なので玄関はキッチンの窓から漏れる外の廊下の光でぼんやり見えるだけだった。

カン カン カン カン・・・・

アパートの階段を誰かが上ってくる。
俺はいつでも布団を頭からかぶる準備をしつつ目は玄関のほうを凝視していた。
何時だろう。。時計がない。。。
携帯どこだっけ。。。
あ、キッチン台の上だ。。。
時間を確かめたかったが、恐怖で半分金縛り状態だったため布団を出て2、3歩歩けば
手が届く距離にある携帯をとりに行くことすらできなかった。

どれだけ時間がたっただろう。
5分か?10分か?30分か?
階段を上る音は聞こえたがそのあといっこうに物音はしない。
(俺は寝ぼけていたのか)
そう思い、ソロリソロリと布団を這い出し
忍び足で1歩2歩 携帯に手をのばし・・・・・・
ふとキッチン前の窓を見ると人影があった。

誰かが廊下にいる。
黒い影が廊下の光に照らされてすりガラスの窓にうつっていた。
俺は携帯に手を伸ばした状態で かたまっていた。
動いてはいけない。影と俺の距離は壁を隔ててほんの1メートル。
影はゆっくりとこちらを向く。

このままではやばいぞ!根性を見せろ!俺!
勇気を出して俺は・・・
スローモーションで携帯を取り1歩 2歩下がり安全地帯(布団の中)に戻るシュミレーションを
頭の中で繰り返し実行に移した。

1歩 2歩ゆっくり後ずさりしていたそのとき
ぼろアパートの床が

ギィ

と鳴った。
俺は、とにかくすばやく静かに布団の中にもぐりこんだ。
心臓がバクバク。
あいつに気づかれたか!息をととのえて布団からそっと顔を出してキッチンの窓を見てみた。
誰もいない。
影がない。
ふと、携帯を見ると時間は3時。
次の瞬間  
カチャ・・・・ カチャ・・・・・ カチャ・・・・
誰かがドアノブをまわす音がする。
ガチャガチャガチャっと乱暴にまわすのではなく、非常に静かに上品?に。
もう限界。
俺は布団の中で携帯を開き、隣に住む友人に電話をかけた。

恐怖で手が震えるってこと経験したことある?
たった、2,3回ボタンを押せばかけれるのに
手がブルブル震えて思ったように指が動かなかった。
やっとのことで友人にコールする。
呼び出し音はしているが、隣の部屋からは携帯の鳴る音すら聞こえない。
マナーモドにしているのか。。。
聞こえるのは玄関の カチャ・・・カチャ・・・・カチャ・・・・
どれくらい時間がたっただろう。
そのうちドアノブの音はしなくなった。
俺はひたすら布団のなかでじっとしていた。

パタン

と音がした。
あいつ、たぶん郵便受から中を覗いていたんだ。
なにしろ古いつくりだから、郵便受のカバーなんかないし、外から開けてみると中は丸見え。
そのうち遠くのほうで
「ワワワワワ〜〜〜〜〜〜ン」
と遠吠えが聞こえた。
階段を下りてゆく音はしなかったが
あいつが遠ざかったと確信した瞬間、俺は安堵と疲れと睡魔に襲われ眠りについていた。 次の日、というか、その日の昼。友人の電話で目を覚ました。
「何?夜中の3時に着信あったみたいだけどw」
あ〜夢じゃなかったんだ。。。
「とりあえず、話長くなるからウチ来いよ」
そういって友達を家に呼んだ。
10秒ほどして友達がやってきた。
俺は昨日の話しをした。
案の定、信じてはくれない。
「寝ぼけてたんじゃね?」とか
「ストーカーか?」とか。

その日の夜もまた遠吠えが聞こえてあいつがやってきた。
その日はあらかじめ郵便受はガムテープで止め、上からダンボールを貼り付けておいた。
準備はしていたがまたやってくるとは。。。
あとはひたすら布団をかぶってあいつが去ってゆくのを待つしかなかった。
ガチャ ガチャ ガチャ 
声はしない。
ひたすらドアノブをゆっくりまわす音だけ。
とにかく、俺はプチノイローゼになっていた。
昼間でも外に出るのが怖かった。

続く