[カーテンの向こう]
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その瞬間でした。
その隣のベットから「ククッ」と、押し殺したような笑い声が聞こえたんです。
うぁ!と思いました。テレビ見て笑ってるよ!と。
思わず文句を言ってやろうかとそのベットのある方のカーテンを睨み付けたとき。

カーテンが透けてテレビの明かりがチカチカと光る中、
隣のベットの主がベットから身を起こしたのが、影になって見えました。
その影が黒に近い赤いスリッパを履くのをカーテンの下から確認できました。
そのままトイレに行くのかと思ったら、
スリッパを履き、そのまま前に突進してくるのです。
ゆっくりゆっくりと。
滑るように一歩を踏み出し、本当にゆっくりと前に進んで来るんです。
前は、私と隣のベットの間には、境界線のように引かれているカーテンがあります。
そこに向かって、ゆっくりゆっくりと赤いスリッパが迫ってきます。

赤いスリッパの主はやがてカーテンに当たりました。
ふわっとその人にカーテンが張り付きます。
想像できますか?カーテンの凹凸で人の形がわかるのを。
背の高さはもとより、鼻の高さ、おでこの高さ、二つの胸の山、
身体全体の凹凸が、ぺったりと張り付いたカーテンを通じて見えるのです。
私がすでに恐怖に縛られ悲鳴すら上げられず、それ以上前に来ないでと、
思う暇すらなくその赤いスリッパの主を見上げていました。
赤いスリッパの主は進むのをやめました。
しかし今度は両手を真っ直ぐだんだんゆっくりと上に持ち上げていくのです。
カーテンはその両手にかかったまま、一緒に上へと持ち上げられていきます。
クリーム色で赤い水玉をあしらったネグリジェが徐々に下から見えてきました。
赤いスリッパの主は、真っ赤な前掛けを掛けて・・・・・

続く