[妹の変わりよう]
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私は頭が混乱しました。「何?なんなの?なんで?」
出る言葉はそればかりです。
「落ち着いて」彼は私にそう言うと美緒子をベッドに座ら
せました。私も腰が抜けて、その場に座り込んでしまいま
した。
彼は何も言わずに泣くだけの美緒子の目を凝視していました。
暫くして彼は溜め息をつくと「大変だったね、美緒ちゃん。
もう大丈夫だから」と言いました。私は彼に「どういうこと?」
と聞きました。すると彼は「美緒ちゃんは誰かに呪われていた」
と言いました。私は一瞬、ふざけないで、と言いそうにな
りましたが、彼の真剣な表情に言葉を飲みました。彼は美
緒子が誰かに呪われていて、殺されかけていたと言います。
そして人を呪い殺すなど並大抵のことではなく、ここまで強い
呪いは滅多に存在しない、とも言いました。私には俄かに信じ
難い事でした。
彼は部屋の中に在った美緒子の鞄を手に取ると、そこから見覚
えのある飾りを取り外しました。それは以前、御守りだと言って
彼が私の家族にプレゼントしてくれた物でした。
「こいつが役にたったな」彼はそう言うと御守りに紐を通し
それを美緒子の首に掛けました。「これで暫くは大丈夫だ」
それから一晩、徹夜で彼と私は美緒子を見守りました。

翌朝、彼と私は美緒子を車に乗せ、彼のオカルト仲間の
田所さん(仮名)の所へ向かいました。彼は問題の解決を田所さん
に託しました。
田所さんのマンションに入ると既に準備が整っていました。彼が
結界と言うそれは私の目には異様に映りました。
田所さんは美緒子を見るなり「こんな大物、どこで拾って来たんだ…」
と言って怪訝な顔をしました。
そして田所さんが私に言った事は、美緒子にかけられた呪いが非常に
重い事。もし彼の御守りがなければ、とっくに美緒子は死んでいた事。
彼の御守りは守護霊の力を増幅する物であり、美緒子の守護霊である
私達の父が頑張ってくれた事。
私は複雑な思いに駆られました。
その後、田所さんに美緒子を預け、私と彼は外に出ました。
彼の知り合いだから疑ってはいないけれど、田所さんがどんな人
なのか彼に聞くと「呪い返しの専門家」と彼は答えました。美緒子に
かけられた呪いを払うのではなく、倍にして返すのだと言います。
彼は低い声で「返された奴は死ぬだろうな」と呟きました。
続けて彼は言います。「美緒ちゃんに呪いをかけた奴は美緒ちゃん以外
にも呪いをかけている。その結果、その子は死んでしまったのだけれど
その子の怨みも呪いをかけた奴に返すんだ。流石に耐えられないだろ。
因果応報だ」
彼の表情に揺らぎはありませんでした。

その後、美緒子は二度と自殺を試みる様な事は致しませんでした。
しかし、友人の自殺体を見てしまった事や自分が自殺しようとした事の
精神的ショックまで解消された訳ではなく、あれから2年が過ぎた今も
美緒子は病院の精神科に通い続けています。
何故、美緒子が呪いを受けたのか。美緒子は何も語ろうとしません。
田所さんや彼は理由を知っているのかもしれません。しかし、私には
聞けませんでした。これ以上、足を踏み入れてはいけない気がしたんです。
あの日、美緒子が剃刀を握り、自らの喉に当てていた、あの瞬間に
私は美緒子の側に立つ何かを見ていたのです。
今もあれは錯覚であると信じたいのですが、思い出すと全身が震えてしまいます。
私があの時、何を見てしまったのか、知るのが恐いのです。


おわり。


次の話

Part204
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