[件の小道]
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そんな時代とは言え、俺はまだ若く今思えば酒の呑み方も知らず店長そっちのけで
泥酔してしまった。
さすがに周りの大人は「●●(俺です)を単車で帰らすのはマズイ。◯◯送ってけ」と指令を
出しました。
◯◯さんとは件の先輩です。

その瞬間、先輩の顔色が「サッ」と変わったのを不思議と印象深く覚えてる。
そこで俺も思い出した。「件の道」を。
これで俺の酔いも少し冷めたのを思い出す。

俺の実家に一番近く、酒を飲んで居ないのは例の先輩だけ。
結局一年前のように俺を助手席に乗せ送ってくれる事になった。

車に乗り込んだ瞬間先輩は「おい、’あの道’通らないとオマエんち行けないの?」
と、尋ねてきた。
少し遠回りすれば帰宅出来るが、俺自身「件の道」に馴れっこだった事と、一年前の
先輩の話に対して半信半疑だったし、何より早く帰宅したかった。

「あるにはありますけど、遠回りだし余計暗いし、逆に面倒ですよ」
と返答した。

渋々了先輩は結局「件の小道」を通る事に納得してくれた。

暫く車を走らせ「件の小道」入り口に。
以前にも書き込んだようにその先輩は今で言う気の優しい秋葉系。
俺は今でいうDQNだったと思う。
その当時は先輩とは言え親しくなっており、軽口を叩けるくらい仲良くなっていた。

「そう言えば去年この道の事で喧嘩してましたよね(笑)」

先輩「・・・・その事は言うな」

至ってシリアスな雰囲気だった。
酔った勢いもあり、「件の小道」中腹あたりでからかってしまった。

「先輩!後ろ!後ろ!坊さんが追っかけて来てますよ!」
本当に軽い冗談のつもりで運転席に向けてそう言った。

いいやw7時に寝ますw
今度いつ書き込めるか分らないので記憶を呼び戻してるうちに・・・


その瞬間、先輩は血相を変えてアクセル全開で「件の道」を走行した。
あんな小道でフルアクセルは本当に危ない。実際死ぬかと思った。
慌てて俺はたしなめた。
「冗談です!嘘です!危ないっす!」ってな具合だったと思う。
それでも先輩はアクセルを緩めない。
仕方無くサイドブレーキを引いた。急に引くと危ないから徐々に・・・
数秒後先輩はハッとしてブレーキを踏んでくれ、車は停車した。
その瞬間。

「バチンッ!」
鼻っつらを殴られて俺は鼻血が出た。咄嗟の事だったので拳か、平手か、裏拳かは
覚えてない。

「その事は言うなと言っただろ!冗談でもやめろ!テメエふざけんな!」
温厚な先輩がまたもやキレて、怒りよりも先に驚いてしまった。

ああ、「あの話」は本当だったんだ。とその時悟り素直に謝罪した。
先輩も我を取り戻し、俺に謝罪したと同時にダッシュボードからウエットティッシュを
取り出して俺に渡してくれた。
気まずい空気を払拭しようと俺は努めて明るく言った。
「いきなりぶん殴るのはナシでしょ(笑)。大人のする事じゃないですよ(笑)」
てな具合に。

先輩はしきりに謝ってきた。
「つーかウェットティッシュって(笑)。せめて普通のティッシュでお願いしますよ(笑)」
「件の道」で停車しながら気づいたら車内は和やかな雰囲気になっていた。


その瞬間・・・・・・


「 ・・シャリンシャリン」


!!!!!!
「あの音」だった。

以前聞いた場所より10メートル程ずれているが二人とも瞬時に「あの音」だと分った。

その刹那、またもや先輩フルアクセル。
俺もビビってもう止めなかった。パニック状態に陥っていて事故る事よりも
「あの音」が怖くてたまらなかった。

「あの音」が付いてくる。
小さくなったと思ったら、急に大きくなったりと訳が分からなかった。
後ろを振り返るなんてとてもじゃないが出来なかった。

フルスピードで「件の道」を抜け俺の家に到着した。
「あの音」は追ってこなかった。

「おい。俺は絶対あの道通らないぞ。他の道で帰る。」

本当だと悟った俺は、遠回りだが県道までの道のりを案内して、そこから徒歩で
自宅に戻った。

先に顛末を書くとその先輩は後に失踪する事になる。
「失踪」と言っても数年後、変わり果てた姿で戻ってくるのだが・・・
続く