[件の小道]
前頁

その数年後の間にも後日談はあるのだが、その先輩は無関係なので時系列は無視して
その先輩の件について書きます。

後で知った事だが、その先輩の家系は神社の家系だった。
先輩の父親は神主さん。
これも後で知った事だが長男だった先輩は家業を継ぐのが嫌で、
医学部で学び医者を目指していたらしい。

そして何の連絡も無くバイト先を辞めていた。
取っ組み合いの喧嘩をしていた仲良し同期の先輩に聞いても
「連絡が取れない」の一点張りだった。
夏は暑く、冬は寒い条件下での仕事なのでバックレる奴も多い。
なので「案外いい加減な人だったのかな」程度にしか思わなかった。

それからどれ位だろう?
地元で夏祭りがあった。
夏祭りと言っても動員数100人位の小さな地域のお祭り。
屋台もテキ屋じゃなく地元の顔見知りのおじさんとか、おばさん。
盆踊りも自分の祖母や友達の祖母といった手作り感たっぷりのお祭り。

フランクフルトが好きな俺はそれだけが目的で会場に行った。
いつも親切にしてくれる親友のおばあちゃんが盆踊りに出るって事もあったし、
本当になんとなく。

小さな会場、小さな櫓。
その周りで盆踊りを踊っている。もちろん会場の殆どが顔見知り。
フランクフルトをたらふく食べて、チューハイを呑みながら会場の花壇ブロックに
腰掛けていた。

すると見覚えの有る顔が。

「・・・先輩だ」

俺は親友に言った。
「あれ◯◯さんだ。地元に居るんじゃん」
急に嬉しくなって駆け寄った。

「◯◯さん!」
声を掛けようとした瞬間異様な雰囲気に気づいた。

不自然な位ニッコリしていたのである。
本当に不自然な位。
「にぃ〜」っといった表現がピッタリ。

服装はボロボロの作務衣のようなものを着ており、ポッケがパンパンに
膨らんでいた。

声を掛けるのが怖くなり暫く呆然としてしまった。

するとその先輩は作務衣のポッケから「モノ」を取り出して、まるでフリマの
ように並べ出した。
それは「木」だった。色々な形の。
最初は愛想良く地元の物売りの手伝いかと思ったが雰囲気がおかしすぎる。

提灯の明かりを頼りにその「木」を凝視すると不格好だが何だか分った。

仏像だ・・・・

酷く不格好な。
形や大きさもバラバラ。

そして愛おしそうな感じで不気味にニヤけたまま、その仏像らしきもの達に
話しかけていた。

尋常じゃない・・・

本能でそう思った。
すると町内会の人たちがその先輩を囲む形で駆け寄った。
内容を聞くと「出店の許可を取っているか?」等の至って普通の会話だった。

が、その先輩は突如鬼のような形相、と言うか叱られて逆ギレした子供のように
顔を真っ赤にして叫びだした。ニヤケ顔からの豹変にビックリしたと同時に
「あの道」で殴られた事を思い出した。

「なんちゃらかんちゃら(聞き取れない)ノコトナンズルカー!」
訳の分からない事を叫んでさっきまで愛おしそうにして居た仏像らしきものを
握りしめて町内会の人たちの顔、本当に鼻の先あたりに次々と突きつけていた。

町内会の祭りとはいえ、所轄の警察署から警官が数人警備している状況。
すぐに警官が駆けつけ事情を把握しようとしていた。

狭い町内、皆が先輩の事に気づきだした。
「◯◯さんトコの子だ」
ってな具合に。

暫くして先輩の父親が迎えに来た。
神主さんの息子と言う事もその時に初めて知った訳。
皆が先輩の父親を「神主さん」的な呼び方で気を遣っている様子が見て取れたし、
父親も「申し訳ありません。すぐ連れて帰ります。」と頭を下げて居た。

そして息子(先輩)に「ヘーデン(?)に来い!馬鹿たれ!情けない!」
と言う様な事を強い語気で話していた。


俺たち「ポカーーーン・・・」だった。


次の話

Part203
top