[田舎]
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その後、農家風のおじさんが言っていた『そこ』らしきところにたどり着き、細い道を登っていったら
それらしい家があった。オッサンの家だった。日も落ちてきたころのようやくの到着だった。

マジで『おお!よく来たな!』っていうウルルン再会的展開になって、
オッサンが『今日は泊まってけ』と言ってくれて、泊まることになった。
奥さんもいい感じの人で、田舎風なあったか料理を出してくれてみんなで一緒に食べた。
一人暮らしの俺は久々のファミリー感にうっとり酔っていた。


しかし夕飯を食ってる最中に、頻繁に電話がかかってくる。
奥さんが主に出るのだが、電話の内容はこうだったそうだ。

『外に停まっているバイクはどうしたんだ?』
『お宅の家を探す余所者がいたがどうなった?』
『今日はにぎやかなようだがどうしたんだ?』

俺が今日出会った人、俺を目にした人からの電話だ。

都会に慣れていると忘れがちだが、そういえば田舎の人のネットワークとはこういうものだった。

周りがすべて他人という都会とは違い、周りがすべてつながっているのが田舎なのだ。
自販機で会ったおばあちゃんも、農家のおじさんも、道ですれちがった車のドライバーも
みんなつながっているんだ。これが田舎の人のネットワークなのだ。

風呂まで沸かしてもらい、しかも一番風呂までごちそうになりながら俺は冷静に考えていた。


ここに来るまでに、俺は誰かに無礼な真似を働かなかっただろうか…?


このネットワークの中での出来事は即座に知れ渡る。
もちろんここの家のオッサンにも。やさしい奥さんにも。明日帰る時に道ですれ違う全ての人にも。


俺の頭の中では草むらの中の板きれがチラついていた。

あれはまずかったか…? 誰かに見られていたか?


風呂上がり、浴室の戸をカラカラと開き真っ暗な廊下に出ると、怒号のような声と
ガシャっと電話を打ち付けるような音が居間の方から聞こえたところだった。

また電話が来たんだ。今度は何なんだ。
居間のふすまの前に立ちつつも、俺はどうしても開けられなかった。
『 ……ほこら…… どうす…  ……ば…が……』
オッサンと奥さんの会話が聞こえる。
俺はどのタイミングで開ければいいんだ。

アレだ。ついに例の件が伝わってきたんだ。
やっぱりアレはまずかったのか。オッサンは今どんな顔をしているんだ。
俺はどんな顔をしてこのふすまを開ければ


バッ!!!!!!
とふすまが勢いよく開いた。
オッサンが目の前に立っている。

オッサンの妙に涙目になった目に一瞬睨みつけられたような気がして俺は腰が抜けそうになったが、
次の瞬間には、オッサンは食事中の時の目に戻っていた。

『聞いたか』

『お前かな』と問われた。

この唐突なやり取りだけでオッサンが言わんとしてることが分かった。
「ぁ… え」と俺がうろたえていると
『布団がしいてるからもう寝なさい』と有無を言わさない声で言われた。

閉じられるふすまの向こうで、奥さんがはっきりと俺を睨んでいる様が目に焼きついた。

続く