[三角関係]
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ある日、A子が一人暮らしのアパートに帰宅し、施錠してドアを背にした瞬間、
全身がゾクゾクとするのを感じた。
肩が重くなり、目の前が真っ暗になった。
夏だと言うのに悪寒が走り、体が異様に震える。
腰が抜けたようになり、ドアを背にずるずると床にへたりこむ。
そのとき、彼女はドアの向こうに、C子がいるのを感じた。
……C子の、……生霊…!
「帰って!」それを何度も頭で繰り返した。
体の震えるのをとめようと、両腕で自分の体を抱きしめるようにして。
「私には何も出来ない!」
彼女は何度か霊を見たりしていたが、「私には何もできないから帰って」と
いうと去ってくれるものが多かったらしい。
しかし「これ」はC子である。
しかも生霊だ。
確信があった。
C子なら、そううまくいくわけはないだろう…そう思っていた矢先、想像以上に
あっけなく気配が消えた。
いつの間にか手のひらは汗でじっとりとしていた。
A子は急いでB男に電話。
繋がらない。何度かけても繋がらない!
繋がらない…どころか、電波が届かないだのいう案内や、通話中の音すらなく
ただただ無音なのである。
C子はB男のところにいったに違いない、A子は確信した。
緊張していた矢先のこと、突然、家電が鳴った。
「…もしもし」
「俺だ、B男だ」と答える声は聞き取りづらい囁き声。
「C子だよね、C子がそっちにいるんだね?」
返事がなかった、でもぶんぶんと頭を縦に振っている気配が伝わってきた。
恐らくマトモに声を出せる状況じゃないのだろう。
「C子…が……」
それだけ言って押し黙ってしまった。
相当震えているのか、合わぬ歯のカチカチいう音だけが聞こえてくる。
「ちょっと待ってて、私がどうにかする!」
なんでも、A子は自分の生霊というかオーラのようなものを自分の意識で
飛ばせるという。
C子のところに、生霊だけを送ったところ…いるではないか!
A子は、ドアに張り付いた半透明のC子らしきものを感じた。
生霊を飛ばすとA子はかなり体力を消費するらしいが、C子はB男への思いから、
無意識のうちにそれを飛ばしてしまっているらしい。
「C子は…C子は今どこにいるって言ってる? メッセ見てみて!」
C子は、逐一「私の行動メール」みたいなのをB男の携帯に送ってきていて、
着信拒否をされてからはmixiのメッセージに執拗にそれを送ってきている。
さすがにmixiまで拒否したりマイミクを切ると自殺しかねないため、
どうしようもなく彼はログインすることをやめることで被害を最小限に
しようとしていたらしい。
B男はPC子を震える体を引きずるようにして立ち上げ、メッセージを確認
しようとする。
送信してきた人の一覧が、未読のC子からのメールで埋め尽くされていた。
ぞっとする。