[逆吸血鬼と存在しない町]
前頁

 「ちょっと待って」
俺は振り向いた。
「君は何年何組?」
「6年2組ですが、何か?」
「この教室は何年何組かわかる?」
何をいってるんだこの人は?と思った。
ここは東校舎の二階で二番目の教室なんだから、
「5年2組でしょ?」「残念、外れ」
嘘だと思うなら札を見てみなよ、といわれて廊下を見ると1年2組だった。
そんな馬鹿な。
俺はすぐに三階に向かった。
自分の教室は、
「2年2組だって?」
すぐに東校舎を出て西校舎に向かう。
3階にいくとそこに6年2組があった。
だがそこには、俺の席がなかった。
呆然としていた自分の背後にあの男がいた。
「君が何をいいたいかはわかっている。俺はそのためにここにいるしな」
「ここ、何処?」
「少なくとも君の居ていいところではないだろうね」
そういえば、なぜこの男はここに居るのだろう?
ここは小学校で、彼が学校の関係者にはとても見えなかった。
「君が君に家に帰ったとしてもそこはきっと君の家ではないだろう。だから、俺の話を聞いてくれな・・・あ!」
俺は走った。逃げるためではなく確かめるために。

 学校を出て1分ほどのところに友達の家がある。
30秒足らずで友達の家の前に着く、そこの表札は確かに友達の苗字だった。
ホッとした。チャイムを鳴らした。そうしたらいつものようで、オバさんが応対してくれる。
そう思ったのだ。
「はい?どちら様?」
だが出てきたのは、オバサンではなく若い男だった。

「あの、横井です。正人くんはいますか?」
見たことない男だが、きっと正人のお兄さんだと思った。
「正人は俺のことだが?」
え、何それ?目の前の男が正人?どう・・・・・・いう・・・・・・こと
そこにさっきの男が走ってきた。
「ああ、すまん。この子、俺の親戚でな。じゃあ、そういうことで」
「あ、おい!」
男は俺を担いで公園に連れて行く。
 
 公園のベンチに二人で座っていた。
「ねえ、どういうこと?あの男が正人だって嘘だよね?」
「ああ、嘘だ」
男は真顔でそういった。
「あの正人は正人であって正人ではない。だがこれでわかっただろう?此処は君のいていい場所じゃない」
「どうすればいい?」
「帰ることだ。可能な限り早く。俺は君を帰すためにここに居る。そういうことになっている」
男は立ち上がる。ついて来る様にいわれたのでついていくと、そこは例の住宅地前の交差点だった。
「もう判ってると思うけど、君が君の家に帰るためには、この交差点を渡り住宅地をもう一回抜けないといけない」
そんなの無理だ。こんな訳の判らない所通るくらいなら、ここに居た方がいい。
「駄目だ。此処は君の居ていい場所ではない」
そんな気持ちは既に見透かされていた。
「でも・・・・・・」
「大丈夫。俺も手伝う」
俺は男を見た。何かを確信するかのように男の顔は自信に溢れていた。
「でもこの交差点を渡るためには、君の力がないといけない。君が俺の手を握ってこの交差点を越えないと俺はこの先には進めない」
だから、と男は手を差し出した。
恐怖心が薄れてゆく。
この男がいれば大丈夫という不思議な安心感があった。
だから、手を握って交差点を渡る。
一歩、二歩、そして交差点を渡りきったとき、男は手を離した。
「ここか・・・・・・」
男は辺りを見回していた。
「ねえ、ここってなんなの?」
「君は知らなくていい。そういうことになっている」
それから男はいたずらっぽく笑い。
「まあ教えてもいいけど、知ったら帰れなくなるかもよ?それでもいい」
俺は勢いよく首を横に振った。

 住宅地は相変わらず人の気配がなかった。
「ゴーストタウンって言葉がぴったりくるな」
男もまったく同じことを考えていたらしい。
「おっさんは此処に来たことがあるの?」
「おっさんじゃねえよ、子供のときに何度かな・・・・・ヤベ」
男は俺を担いで、慌てて物陰に隠れた。
ついでに何故か目と口を両手で覆われる。
「しっ」
おとなしくするようにいわれたので、耳を澄ますと向こうから足音がした。
それはだんだんこちらに向かってくる。
息を潜めてじっと待つ。
やがてそれはすぐ壁の向こうを通り過ぎ、向こうに消えた。
「今のは?」
「俺たちと同じ侵入者」
「何で隠れないといけないの?」
「ここでは侵入者同士は会っちゃいけない。そういうことになっている。大事なことだからよく覚えとけ」
「こんなとこ二度と来るもんか!」
「まあ、そうするにこしたことはないよな」
男はまるで自嘲するかのよう笑っていた。
何故か気に入らない。
「なんなのさ?」
「別に」

 侵入者をやり過ごしてしばらく歩くと、住宅地の終点が見えてきた。
「あそこを出れば、君は元の世界に帰れる」

続く