[逆吸血鬼と存在しない町]
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そういった男はふと後ろを振り返った。
「どうしたの?」
「気づかれた」
誰に?という言葉は飲み込まれた。
何故なら、今まで無人だと思っていた家の窓全てに人の影らしきものが浮かんでいた。
それらははっきりとした輪郭を持っているわけではない。
幽鬼のようなぼんやりとした感じなのに、そこら中から痛いほど視線を感じていた。
何故?ばれてはないはずなのに。まさかあいつが・・・・・・そんなことを男はつぶやいていた。
「どうやらさっきすれ違ったやつがヘマしたらしいな」
「そんな・・・・・・どうすれば」
「兎に角走れ!」
そういって背中を押された。
だが男は走る気配がない。
「おっさん!」
「俺は此処までだ。これ以上は行けないんだよ」
「そういうことになってるから?」
一瞬、男は真顔になり、そしてニヤリとした。
「そういうことだ。覚えとけよ!忘れるなよ逆吸血鬼!」
そして男は住宅地の奥に走っていった。
幽鬼達の視線が男のほうに向かっていった。
その隙に俺は駆け出した。
兎に角走る。
後ろからあの黒い影が追ってくる気配がする。
今にも後ろ髪を引かれそうな距離にいるのがわかる。
怖い、怖くて仕方ない。
でも振り返ってはいけない。
ドラマとかではこういうところで振り返ったら死ぬ。
そういうことになっているから。

 やがて俺は橋の上に居た。振り返ると、背後には山が聳え立っている。
そして、あの道はなくなっていた。思わずその場に座り込んだ。足腰が立たなくなっていた。

しばらくそのままでいたが、やがて足腰にも力が戻った。
空はもう既に赤く染まり、カラスが鳴いている。
家に帰らなければ。
そして立ち上がり、改めて道のあった山を見て、

そこから無数の目が一斉にこちらを見返して、

その後の記憶はない。
気がつくと病院に居た。
目が覚めて最初に見たのは医者の顔、そして次に看護師さんが脈を図っていた。
次に母親が部屋に飛び込んでくる。
泣いていた。
何故泣いているのか聞いたらさらに泣いた。
夜になって父親もやってきた。
初めて父親の泣き顔をみた。
どうやら一週間も行方不明扱いだったそうだ。
たった数時間で死ぬほど殴られるから、一週間も消えていたらすごく怒られるんじゃないかと思っていたのでこれは意外だった。
もし一ヶ月も俺が消えていたらどうなるんだろう?
試したくはないけど、そう思わざるを得ない。
翌日警察の人が来て、消えている間の事を聞きにきたが、素直に覚えていないと答えた。
知らない道を散歩していたら気を失って、気がついたら病院に居たのだから嘘はついていないつもりだ。
大体、こういう話は語ったところで信じてもらえないばかりか変人扱いされて病院送りだ。
そういうことになっている。
同じ体験をしているなら話は別だけど、ね。

 結局、気になって調べてみたら似たような話は結構あるらしい。
変なところに迷い込んだら、そこには変な機械を持っているおっさんが居て、元の世界に送り返されるという話。
俺の場合は若い男だったが、彼もおっさんの仲間なのか?
彼とした会話は今でも結構はっきりと記憶に残っている。
その会話を元に俺はある一つの仮説を作った。
ただそれは、おかしな点がいくつかあるために確信にはいたってない。
それは、彼の行動に無駄があること、6年2組が2年2組になっていないこと、そして未だに俺がそれを経験してないということ。
だから結局あれが何だったのかは判らずじまい。
それにこの仮説が正しいとしても、無数の目と幽鬼については説明できないから結局お蔵入りとなっていた。

 ただ最近進展があった。それはあの山を削ってそこを住宅地にする計画があるということ。
工事予定はまだ確定してないし、地元住民に説明会を開いている段階だが、俺はこの計画が確実に成功するような気がしてならない。
そして、住宅地が完成すればあの幽鬼達の正体をつかめる。
そういうことになっている、かどうかはとりあえず完成するまでわからないけど。


次の話

Part196-2
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