[主人を待つ女]
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その時から稀に帰りが遅くなると、玄関で声を聞くようになった
何度目かで耐え切れずに、管理会社にも話を通したが
反応は思わしくない、一度立会いには来たものの異常がないと見るや
「ただの音の反響でしょう」と呆れたように帰って行った
当然と言えば当然なのだが・・・

一ヶ月ほど経っただろうか、その頃になると私は背中に痒みを感じるようになった
最初は汗疹か何かと特に対処せずにいたがそれが全身に広がるにつれ
痒みが痛みに変わっていった
医者に相談するも原因は分からず抗生物質と塗り薬を処方され
その場を凌ぐ日々が続いた

自分は無神論者ではあるが、
事ここに至っては、あの部屋に居る事が原因なのではないかと思い始め、
とうとう解約するに至った
これで来月の末には退去する事ができる
私はその日、久しぶりに安堵感に包まれながら夜を迎えた
全ては終わった、この部屋さえ出てしまえばまたいつもの日常に戻れるのだ

退去する日も近くなり私は仕事が終わってから
アパートに住んでいる人たちに菓子折りと包丁を隠し持って
挨拶に行くことにした
隣室の人は事情を話した瞬間、ああやっぱり、と言うような顔で頷いた
何か知っているのだろうかとも思ったが、もう私には関係ない事なのだ
私はこれからあそこでずっと彼女と一緒にいるのだから

私は何を考えているのだろう

「ご丁寧にありがとうございます」
「いえ、こちらこそ短い間でしたけどありがとうございました」

隣室の住人は結構若いお兄さん
ちょっと、カッコイイカモシレナイ

「どちらに引っ越すんですか」
「あ、結構近くなんですヨ、仕事場が近いのデアマり離れた場所ニハイキタクナイノ」
「?そ、そうなんですか」
「ウン!デモアナタはワタシ?オットがカエッテコナイノ、貴方でしょ?」

カッコいいお兄さんの胸がマッカッか
カコちゃん楽しいね

そして私は部屋に戻るのだ

「お帰りなさい」
「ただいま」

いつもカコちゃんといっしょに住んでるの
最近ネットが楽しくて2ちゃんみてるよ?
ここの人たちならきっと私の事?w


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Part194
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