[黒い影]
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私が机に伏せていると、
「はい、席に着けー。」と先生の声がした。私は喧嘩の事がばれているんではないかと、焦りながら顔を上げた。
しかし、先生は淡々と今日の授業の流れを説明し、出欠をとりだした。
チラリと後方のBの席を見ると、そこには目を真っ赤に腫らしたBが座っていた。
Bと一瞬、目が合ったが、慌ててそらした。しかし、Bは大した怪我もしてないみたいで少し安心した。
いや、Bが怪我をしようが死のうが、どーでもいいが、私が怪我をさせたとなると、私の母にまで迷惑をかけることになる。それだけは避けたい。

始業ミーティングが終わり、一時間目の授業が始まった。

そして、一時間目の授業が終わりかけたとき、後ろの席の奴に肩を叩かれた。
振り向くと、小さな紙切れを渡された。
『回し紙』だ。

開いてみると、差出人はわからないが
『今日の放課後、兜山に来い』
と書かれてあった。
背筋が冷たくなった。

なぜか頭に【集団リンチ】という言葉が浮かんだ。


それから、放課後までの授業は全く頭に入らなかった。生きた心地もしなかった。
何をされるのか?
先生に言うべきか?
授業が終われば逃げるように帰るべきか?

そんなことばかり考えていた。
それにいつもと違い、クラスメイトの視線が私の動向を常に監視しているように感じた。

ついにその日の授業はすべて終わった。終礼も終わり、皆がゾロゾロと教室から出ていく。
私はしばらく座っていたが、先生に「おい。どした?帰らないのか?」と言われ、「いえ、さよなら!」と慌てて席を立った。

廊下にでて、靴箱まで、ずっと考えていた。何をされるのだろう・・何人いるのだろう…
胃が痛かった。
私が靴箱に着いたときには、すでに誰も居なかった。私は自分のスニーカーに履き替えると「!」
何やら靴に入っている。
靴を脱いで、それを出してみると、ピンク色の小さく丁寧に畳まれた紙が入っていた。
表に『◯◯君へ』と可愛い丸文字で私の名が書かれていた。
とりあえず開けてみると、『兜山、逃げずに来てね♪』
とだけ書かれてあった。
極限までメンタルを潰されそうだった。

『兜山』
学校の真裏にある山で、学校で使う為の水の貯水池がある。
五分ほど登ればちょっとした広場があるが、そこに行くまでが獣道しかない為、一部の子供しか寄り付かない。


私はこちらに引っ越してきてから一度も中に入ったことは無かった。未知の領域である。
それが更に私の不安感を煽る。
それに、山中だから泣いても喚いても、誰も助けてくれない。

しかし、精神的に追い込まれた私は行くしかなかった。
重い足取りでトボトボと山の麓までいった。

まだ昼過ぎなのに、麓から見える山中は、生い茂った木々でやや薄暗い。

私は固く目をつぶった。
まぶたの裏には『黒い影の眼球』が、やはり瞬きしている。
私は心の中で何度も復唱した『お願いします、助けて下さい!』と。
しかし、眼球はいつものように、瞬きするだけだった。 私は山へ踏み込んだ。入り口こそ少しまともな一本道があるももの、すぐに道は無くなり、まるで雑木林だ。
しかし、一部、真新しい獣道がある。恐らく数十分前に誰かが通ったであろう痕跡が残っている。
私はそこを通って山を登り始めた。

私が草木や枯れ葉を踏む音だけが響いている。とても静寂な山だ。
今から何が始まるのか・・・
しばらくして広場に出た。
恐る恐る周りを見渡すが誰もいない。
どこかに隠れているのか?
その時、肩に鈍い痛みを感じた。『ゴロッ、』
足元に拳大の石が転がる。
振り向いたがやはり誰もいない…

『ボクっ』次は脹ら脛に痛みが走った。やはり投石だった。
よく耳を澄ますと、どこからか『クスクス…』と笑い声がする。


続く