[黒い影]
前頁
私は石をぶつけられた『痛み』よりも『目に見えない誰か』からの攻撃に恐怖し、足が震えだした。
泣きそうになった。
すると、前方の茂みからガサガサと音がし、中からゾロゾロとクラスメイトが7人出てきた。
その中にはBもいた。やはり今朝の報復だ。
7人はケラケラ笑いながら歩み寄ってきた。
「朝はありがとな!」と言いながら、Bは私の脛を蹴ってきた。
「痛っ!」私がしゃがみ込むと、Bは私の髪を鷲掴みにし、「こいつだよ、、」と笑った。
後ろの茂みからガサガサ音がした。髪を捕まれながら振り向くと、上級生らしき奴が三人立っていた。
そのうちの一人が「このチビか?」と近づいてきた。
Bが「そーだよ、兄さん!こいつに朝、メチャクチャされたんだ!」と言い、私の髪を掴んでいた手を離した。
Bの兄はさらに私に近づいてきた。私は取り敢えず立ち上がった、その時、Bの兄は私の両肩を思い切り突き飛ばした。
私は顔面から地べたに、ヘッドスライディングのように転倒した。
Bの兄は「調子乗ってんぢゃねーぞチビぃ!」と、吐き捨てた。
さらにB兄は倒れている私の頭を踏みつけた。
それまでは痛み、恐怖があったが、その行為で私の心に『屈辱感』がわいてきた。
気がつけば私の目から涙が溢れていた。なぜ私がこんな目に逢わなければならないのか?
その姿を見て、Bをはじめ、クラスメイトは指を差し笑っていた。
それを見た瞬間、今朝のように頭の中が真っ白になった。
私は後頭部を踏みつけられたまま思い切り立ち上がった。自分でも驚くように、両腕、両足に力が入っていた。
B兄はバランスを崩し、転けそうになったが、踏みとどまり、「お前ぇ!」と、すぐさま両手で私の胸ぐらを掴んできた。
私は何も考えず、いや、無意識に、両手の親指をB兄の目に入れていた。
「うわっ!!」
慌ててB兄は胸ぐらから手を離し、両手で目を覆った。私は自分自身の行動に驚いていた。
驚いていたのも束の間、私は足元に落ちていた拳大の石を拾い上げ、B兄頭を思い切り殴りつけた。
鈍い音と同時に、漫画のようにピュっと血が出た飛散した。
「痛ぁーぁ!!」
B兄は今度は両手で頭を抱えながらしゃがみこんだ。
私は呆然とした。
いや、しかし、体が勝手に動く。右手に石を強く握りながら私の両足はB兄に向かい、進んでいる。
私は意味がわからなかった。まるで夢を見ているようだ。自分の意識はハッキリあるのに、体はまるで他人。勝手に動いている。
しかし、目に指を入れた感触、石の感触、殴った感触はリアルにある。
しかも私の表情は
『笑っている』
私は全く笑っていないのだが、頬の筋肉の感触で、私は今、ニヤァっと笑っているのが分かる。
私の体がB兄に近づき、石を握った右手が大きく上がった瞬間、残った2人の上級生が私に抱きついてきて
「もうやめろ!やりすぎだろ!お前!」
と叫んだ。
「黙れ!!」
少しシャがれた罵声が聞こえた。中年女性の声。
さらにその女性の大声は
「貴様らぁぁぁ、許さん!!」と怒り狂った様子だった。
いや、何かおかしい…
どこにも女性はいないのに、間近から聞こえた…
いや、その声は、私の口から発せられていた。
(未完)