[黒い影]
前頁
当時の私は幼いながらに教師に『イヂメ』られているということを悟られるのがとても恥に思い、下唇を噛み締め
「すいません…」とだけ言い、その場を去った。
遠くに走り逃げているAの後ろ姿が見えた。
依然、Aの背中には『黒いそれ』がまるでAに覆い被さるように絡み付いていた。
私はAの後ろ姿を見つめながら、強く、強く
『くそ!Aめ!あんな奴死んじまえばいいのに!』と思った。
その瞬間、Aの背後にまとわりつく『黒いそれ』が人形のようになり、両腕、両脚をAに絡み付けているように見えた。
私は腹が減ったまま一人で人気の無い広場で、じっと集合時間が来るのを待った。。。
15時。自由行動終了の時間。私は一人、トボトボとバスへ歩きだした。
バスの近くまで来たとき、背後からドタドタドタと、慌ただしい足音が聞こえた。
振り向くとAと一緒に行動していたBとC(先程、私を暴行していたメンバー)が血相を変えてバスへ走って行った。
Bは半べそで「先生、ちょときて!Aが!」
Cも「早く、やばいよ!先生!」と、何やら取り乱していた。
先生はBにCに連れられ、動物園に走って行った。
俺はバスに乗り込んだ。
それから5分程して、今度は先生が血相を変えてバスに戻ってきた。背中には号泣しているAをおぶっていた。
Aが号泣している訳はすぐに分かった。
Aの右脛に直径10センチ程の傷があり、凄い勢いで血が流れていた。
先生は、他の教員に「救急車!救急車!」と軽くテンパっていた。
バスの中は皆、Aの様子、怪我具合を見、ざわざわしだした。
私は号泣するAを見てニヤリと笑ってしまった。
その時、Aの背中には『黒いそれ』は見えなかった。
その日、先生とAは救急車で近くの病院に行き、私たち残り生徒は予定どうり学校に戻った。
バスの中はAの話題もちきりだったので、Aがふざけて金網フェンスによじ登り、足を滑らせ、落ちた足場が悪く、石で脛を打ち、パックリ割れた、と言うことが分かった。
家に帰り、私は『やった!』と心から喜んだ。自分でも、人の不幸を喜んではダメだと分かっていても、ついつい顔がにやけた。
腹が減っているのも忘れ、ベットに寝転がり、ニヤつきながらゴロゴロしていると、いつの間にか眠りに落ちた。
不思議な夢を見た。
私が立っていると、私に向き合うように『黒いそれ』が現れた。
『黒いそれ』はゆっくりと人の形になった。
しかし、煙?霧?のような質感?の為、性別や表情は全くわからない。
しかし、なぜか私の心は安堵感で満たされていく…
『黒いそれ』もじぃーっとこちらを覗き込むように私に顔を近づけてきた。
私は物心ついた時から『黒いそれ』を見てきたからか、自然と「これからも仲良くしようね。」と話した。
『黒いそれ』はスーッっと姿を消した。
目が覚めた。時計を見ると,まだ夜の10時だった。
なぜか鮮明に夢の事を覚えていた。
私はこのときはまだ『黒いそれ』の恐ろしさに気づいてなかった。
明くる朝、私はいつもどうり学校へ通学していた。
昨日の夢の事はまだ鮮明に覚えていた。
校門近くに差し掛かると、「パチッ!」
と後頭部に衝撃が走った。ビックリして振り向くと、Bが立っていて、私の驚いた表情を見るなり、
「バァーカ!」と憎たらしい顔で言い放ち、走って行った。
私は、はぁ、、、また憂鬱な1日が始まる。。。
と思い、学校に入った。
始業ホームルームが始まり、先生が昨日のAの怪我の経緯と症状を説明しだした。Aは右脛を8針縫ったらしい。いい気味だ。
2、3日休むらしい。
永遠に来なければいいのに。
そして授業が始まった。
一時限目、二時限目が過ぎ、3時限目の体育の時間。私の一番嫌いな学科だ。
私は決して運動音痴ではないが、体育の時間が一番嫌いだった。
理由は、教師の目が生徒全体に行きにくい、教師の目の死角をついて、私にちょっかいを出してくる輩がいるからだ。
今日の体育はサッカーだった。
試合形式だ。
私はいつものように、隅に立ち、じっとしている。
しかし、必ずといっていいほど、私の元に皆、ボールを蹴り、奪い合うふりをして、私の足を蹴ったり、肘打ちしてきたり、肩からタックルを入れてきたり・・・
『公開処刑』だ。
さっそく私の元にボールが転がってきた。
一応、授業なので避けるわけにもいかない。過去にボールから離れ、教師に怒鳴られた経験がある。
私は渋々、ボールを蹴ろうとした、その時、間髪入れずにBが体当たりしてきた。私は無様にグランドに転がった。