[黒い影]
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私、物心付いた時から、人には見えないものが見えます。いや、幽霊とかじゃないと思うのですが、
「怒りの感情」を抱いた時にそれは見えます。
初めて見たのは幼稚園の年長組の時。
友達のAとお菓子の取り合いで喧嘩して泣かされた時、悔しさと悲しみとAに対する怒りで泣いたとき、涙で滲んだ視界に「それ」は見えました。
Aの背後に全身真っ黒で、大きな影のような、しかし輪郭は朧気で。
以来、「それ」は喧嘩や先生、親にきつく怒られたりしたときに等に頻繁に見るようになりだしました。
しかし、当時は「それ」が何なのか、全く理解もせず、他の人にも当然見えているものだと思っていました。

そして、小3になり、私は親の離婚で、関西から関東に引っ越ししました。
新しい小学校で私は関西弁が原因で時折、クラスメイトからからかわれるようになりました。しかし、当時の私は家庭の事情もあり、学校ではあまり、社交性もよくなく、友達も出来なかったので、次第にイヂメの標的になりました。
初めは言葉づかいをからかわれる程度でしたが、次第に教科書に落書きされたり、文具を隠されたり・・・
それでも当時の私は何故か腹を立てず、毎日学校に行きました。
私は母親に育てて貰っていたので、母には心配をかけたくなかったので、もちろん、母や先生にも相談しませんでした。

そんな陰湿なイヂメを毎日学校で受け、家に帰っても寝る時間まで母は仕事で帰ってこない為、私は自分の生きる意味を毎日考えていました。
小さいながらに「死」を考えて、自分で自分の首を絞めたり、タオルできつく首を縛ったりばかりしていました。結局は死ぬことも出来ず、毎日家に帰っては一人で泣いていました。

ある日、学校の遠足で動物園に行きました。少し遠いとこだったのでバスでいきました。
友達のいない私は一番後ろの補助席でした。
動物園について、私は一人で行動していました。
そして、お腹が空いてきたので人気の無い場所を探し、一人で弁当を食べようとしたときに、事件は起きました。
母が早朝に作ってくれた弁当が鞄の中にないのです。私は焦り、バスの中に落としたのか?と思い、走って戻りました。
しかしバスの中にもありません。
とりあえず自分が歩いた場所を必死で探していると、クラスメイトの数人がニヤニヤしながら寄ってきて、「あそこのゴミ箱に宝物あったぞ!」
と話して来ました。

嫌な予感がしました。そいつの指差す方向のゴミ箱に走り寄り、中を覗くと、私の弁当が中身をひっくり返されてグチャグチャに捨てられていました。
私は呆然としていましたが、朝早くから作ってくれた母の事を思うと、申し訳なく思い、涙がポロポロこぼれました。
その姿を見て、クラスメイトは笑いながら
「バカぢゃね?」
等と言っていました。
それを聞いたとき、私の中で何かが変わりました。
そいつに対して『ブチ殺してやる』という感情が、今まで味わったことの無い程の怒りの感情が芽生えました。
私はゆっくり振り向き、バカ笑いしていたAを睨みました。
Aはまだ私を見てわらっていました。

私は怒りで頭の中が真っ白になった。ただただAに対する憎悪の気持ちが押さえきれないほどに溢れてきた。
ジッとAを睨み続けた。
Aは悪びれもなく
「こいつ、睨んでんの?キモ!」
と笑っていた。
それを聞き、私は怒りの感情がコントロール出来ず、次第に手足がプルプルと震え出した。
その時、
Aの背後に黒い煙・・・モヤのようなものがモクモクと出てきた。
私にとっては久し振りに見た黒いそれ。
黒いそれは瞬く間に人の形になり、Aの背後にピッタリついていた。
しかし、Aはともかく、Aの回りにいるクラスメイトも、それの事を全く気にしていない…いや、見えていないようだった。

兎にも角にも、私は怒りが収まらず、気がつけばA目掛けて全力で走っていた。奇声を発しながら。
私は無我夢中でAに掴みかかり、そのままもつれ合いながら倒れた。Aは面食らっていたが、Aの回りにいたクラスメイトがすぐさま私を蹴ったり髪を掴んで、Aから引き離そうとした。
その場にいた皆は発狂した私を珍獣を見るようにな目で、楽しむかのように薄ら笑いを浮かべ、暴行してきた。
私はただただ、必死にAを掴んでいた。Aは
「離せよ、キメーんだよ!クズ!」等、ワメきながら私の手を必死に剥がそうとしていた。

私は皆に揉みくちゃにされながらAを睨んだ。
Aは少しひきつった表情をしていた。
それよりも驚いたのは、このような状況でも「黒い影」はAの背後に、まとわりつくように見えていた。


「おい!」
その時、騒ぎを聞き付けた教師が私たちの輪に駆け寄ってきた。
みんなは一目散に散り散りに走って逃げていった。
取り残された私は教師に
「こんなとこで暴れるな!何してたんだ!」と一喝された。

続く