[戦中の魔物]
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さて、前置きが随分長くなったけれども、ここからが洒落にならないぐらい怖かったのよ。

じいさんがやっとこ復員した頃、モノが窮乏する中闇市が活況を呈していた。でもって、
漏れの母方にはのん兵衛が多い。何しろ、お袋の曽祖父に当たるご先祖様などは、天に召される
前日まで、毎晩必ず一升瓶を開けてたぐらいだ。しかし酒は普通じゃ手に入らない。追っか
け、酒を闇から調達して飲むワケだ。
ある日漏れのメチャクチャ遠い親戚のおじさんが、闇からどぶろくを仕入れて友達と飲んだ。
まぁ、ここまでならよくある話だ。

当時の闇酒といったらメチル入りで目が潰れるってのが相場だけど、おじさんは最悪のアタ
リを引いてしまった。何とそのどぶろくはホルマリン入りだったのだ。生きてる金魚を溶液中に
放り込むと、あっという間に真っ白になって死んでしまうというアレだ。無論、二人とも無事で
は済まなかった。

おじさんと友達は宵の口からちょいちょいやり始めて、七転八倒の挙句に死んでしまい、大騒ぎ
の果てに集まった見舞いがすぐに通夜になってしまった。
じいさんは二人の見舞いに行く途中、人魂を見て家に転がりこんできた。漏れのひいばあさ
んによれば、かなりビビってたらしい。とにもかくにも、通夜が始まった。

皆故人の思い出話に花を咲かせた。死体を囲んでがやがややってたら、見舞い人に混じっ
てた大陸帰りの医者崩れが、大陸でやった手術や実験の話を延々続けてやりだして、みん
な腰が抜けて便所にいけなくなったそうな。
母方にはやたらと頭の回転が速い上、肝っ玉の据わってる人が多くて、宗教に日教組かか
って来いや的な人が多い。それが腰を抜かしたってどんな話だよ、と話を聞いた当時少年だ
った漏れは一瞬疑問に思ったんだが…。

大陸?
人体実験!?
ま・さ・か!!


その医者崩れの素性も行方も杳として知れない。
また、生命に微塵の敬意をも払えぬ人間などとはできれば関わりたくも無い。
ともかく漏れにとっては、身近なところに宅間なんかメじゃないぐらいの魔物がいたりする、
想像よりも極端に狭かった世界が本当に恐ろしかった。
漏れにとっては幸いといおうか、スレッドの皆様には生憎といおうか、漏れの一族が祟られた
の、呪われたのといった話は聞かない。
長文スマソ


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