[赤が好き]

随分前に大阪にある大学に通っていた連れから聞いた話です。
バレー部に所属していた連れは先輩からこの話を聞いたそうです。
恒例の男女合同夏合宿での話です。

その年も夏合宿があり早朝から夕方までキツイ練習をこなして
夕食以降は各部屋に集まってトランプをしたり、下らない話をして
時間を潰してた。すると1組のカップル(A雄とB子)が夕食の後、
デートを楽しんで来たのか部屋に帰ってきた。
”何してたんだよ!”との問いに”ただ喋ってただけだよ”
とA雄とB子はおどけてみせてた。公認のカップルだったので、
みんなは冷やかしはしたものの、また下らない話に花を咲かせていた。

しばらくするとB子が何やらブツブツと誰に話しかける訳でなく
こんなことを言い始めた。

「私ね、赤が好きなの」
「ホントにね、赤が好きなの」

周りの人達はそうなんだと相槌を打つだけで気にも止めていなかった。
B子は今度は少し大きな声で言い始めた。

「何で私じゃダメなの!!」

突然のことにみんなはびっくりした。一番びっくりしたのはA雄だった。
さっきまであれほど仲良くしてたのに何言ってるんだと。

みんなはA雄に”何したんだよ”、”B子を泣かすなよ”と冗談っぽく
突っ込みを入れてたが、B子は聞こえない様子で繰り返ししゃべった。

「赤が好きなの」
「私じゃダメなの」

A雄が”どうしたんだよ、B子。ダメじゃないよ!”と言うがB子は
聞こえていないのか同じ言葉をただただ繰り返すだけだった。

次第に周りもB子の様子がおかしいと感じ始めた。そしてみんなは
B子が赤のTシャツ、赤のマニュキアをしていることに気付く。

”おい!”という誰かの声と共に男数人でB子を押さえつけた。
とても女の力とは思えない抵抗をするB子。
”服脱がせろ!マニュキア剥がせ!”と怒涛が飛ぶ。
B子は抵抗してなかなか上手くいかないが、マニュキアを爪で剥ぎ、
Tシャツを破るように脱がせることに成功した。
するとB子の力は抜け、落ち着きを取り戻した。

騒ぎを聞き駆けつけて来た旅館の宿主も心配そうにしていたが、
しばらくするとB子は何があったのか自分ではわからない様子で
みんなから事の成り行きを聞いた。B子は部屋に帰って来たまでは
覚えているがそれ以降は記憶がないとのことだ。

妙な事があるもんだとみんなは気を取り直して、夜の散歩に出かけた。
旅館は海沿いにあり、近くに海を見下ろせる公園がある。
海岸沿いをみんなで取りとめもない話をしながら歩く。
左手に波打ち際、右手に崖、崖の上には公園がある。
すると何かが目の前を崖から波打ち際に向かって転がっているのを
見つけたがみんなは気にも止めなかった。
散歩を終えて旅館に帰り着いた後はそれぞれに床についた。

早朝”おい!これじゃないか!!”という宿主の声で起こされた。
宿主が持って来た新聞には公園から飛び降り自殺をした女性の
記事が載っていた。それによると女性は男性にフラれた悲しみで
自殺したと書いていた。飛び降りた女性は崖の途中の木に身体が
引っかかり、首だけがないとのこと。さらに男性の証言から女性は
赤い服に赤いマニュキアをしていた。

A雄とB子がデートをしてたのは、この公園らしいです。


次の話

Part192menu
top