[井戸の地下]
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 Kさんが、袋の口をきつく縛るのを確認すると、Sさんは更に数回、袋を蹴った。
「これくらいかな。殺しちゃまずいからな」
Sさんはそう言って、俺を見た。
「お前、こいつの顔を見たか」
「いえ・・・突然だったんで、何が何だか」
そう答えるのが、精一杯だった。その時は本当に、どこかで見たような気がしたけど、思い出せな
かった。

 SさんとKさんは、再び動かなくなった『袋』を担ぎ上げた。それまでと違うのは、真ん中に俺が
入ったこと。もう中身を知ってしまったので、一連托生だ。

 それからその13号坑道ってやつを、延々歩いた。今までの広い通路とはうって変わって、幅が
3mも無いくらいの、狭い通路だった。

 右手は常に壁なんだけど、左手は時々、下に下りる階段があった。幅1mちょいくらいの階段で、
ほんの数段下りたところに、扉がついてた。

 何個目か分かんないけど、Sさんがある扉の前で止まれって言った。そこもまた『帝国陸軍』。
『帝国陸軍第126号井戸』って書いてあった(128だったかも。偶数だった記憶があるけど忘れた)
それでSさんに言われるまま、中に入った。

中は結構広い部屋だった。小中学校の教室くらいはあったかな。その真ん中に、確かに井戸
があった。でも蓋が閉まってるの。重そうな鉄の蓋。端っこに鎖がついてて、それが天井の滑車
につながってた。滑車からぶら下がっている、もうひとつの鎖を引いて回すと、蓋についた鎖が
徐々に巻き取られて、蓋が開いてく仕掛けになってた。

オレは言われるままに、どんどん鎖を引っ張って、蓋を開けていった。完全に蓋が開いたとこ
で、二人が『袋』を抱え上げた。もう分かったよ。この地底深く、誰も来ない井戸に、投げ込んで
しまえば、二度と出てこないもんね。でもひとつだけ分からない事があった。なんで「生きたまま」
投げ込む必要があるの?

 二人は袋を井戸に落とした。ドボーン!水の中に落ちる音が、するはずだった。でも聞こえて
きたのは、バシャッて音。この井戸、水が枯れてるんじゃないの?って音。SさんとKさんも、顔
を見合わせてた。

 Sさんが俺の持っているマグライトを見て顎をしゃくってみせ、首を傾げて井戸を覗けってジェ
スチャーをした。マグライトで照らしてみたけど、最初はぼんやりとしか底まで光が届かなかっ
た。レンズを少し回して焦点を絞ると、小さいけど底まで光が届いた。光の輪の中には『袋』の一
部が照らし出されてる。やっぱり枯れてるみたいで、水はほとんど無い。

 そこに手が現れた。真っ白い手。さらにつるっぱげで、真っ白な頭頂部。あれ、さっきの『袋』
の人、つるっぱげじゃ無かったよな。ワケが分かんなくて、呆然と考えていたら、また頭が現れ
た。

 え?2人?ますます頭が混乱して、ただ眺めてたら、その頭がすっと上を向いた。目が無い。
空洞とかじゃなくて、鼻の穴みたいな小さい穴がついてるだけ。

 理解不能な出来事に、俺たちは全員固まってた。しかも2人だけじゃ無さそうだ。奴らの周囲
でも、何かがうごめいている気配がする。何だあれ?人間なのか?なぜ井戸の中にいる?何
をしている?

続く