[地下の井戸]
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SさんもKさんも、うっすら汗かき始めてて、随分重そうだったけど、運ぶの手伝えとは言
わなかった。中に入るとすぐ階段で、ひたすら下に下りて行った。結構下りた。時々二人が
止まって、肩に担ぎ上げた「荷物」を担ぎ直してた。

 階段を下りると、ものすごく広い通路が、左右に伸びてた。多分幅10mくらいあったと思う。
下りたところで、ひと休みした。通路はところどころ電灯がついてて、すごく薄暗いけど、一応
ライトは無しで歩けた。俺たちは反対側に渡って(って言いたくなるくらい広い)、左手に向かっ
て進んだ。

 時々休みながら、どれくらい進んだかな。通路自体は分岐はしてない。ひたすら真っ直ぐで、
左右の壁に時々鉄の扉がついてる。ある扉の前でSさんが止まって言った。
「これじゃねえか。これだろ」
そこには『帝国陸軍第十三号坑道』そう書いてあった。字体は古かったけど。信じられる?今
の日本にあるのは、陸上自衛隊でしょ。何十年も前のトンネルなのか、これは?

 SさんもKさんも、汗だくで息も荒くなってたから、扉を入ったところで、また「荷物」を下ろして、
休憩する事にした。二人とも無言だったから、俺も黙ってた。

 しばらくして、Sさんがそろそろ行こうって言って、袋の片側、多分『足』がある側を持った。そ
したら・・・

『袋』が突然暴れた。Sさんは不意を突かれて、手を放してしまい、弾みで反対側の袋の口から、
顔が出てきた。猿ぐつわを噛まされた、ちょっと小太りの男。

 どっかで見たことある・・・それもあるけど、分かっていながらも、袋からリアルに人が、しかも生
きた人が出てきた事にビビッて、俺は固まってた。

 SさんがKさんに
「おい何で目を覚ました!」
「クスリ打てクスリ!」
「袋に戻せ!」
とか言ってるのが聞こえた。

 Kさんはクスリは持って無いとか、何とか答えてた。その間も『袋』は暴れてた。暴れてたという
か、体を縛られてるらしく、激しく身をよじって、袋から出ようとしていた。
 するとSさんが、袋の上から腹のあたりを、踏んづけるように蹴った。一瞬『袋』の動きが止まっ
たけど
「ウ〜!」と、すごい唸り声を上げながら、また暴れ出した。

 Sさんは腹のあたりを、構わず蹴り続けた。それでも『袋』は、暴れ続けた。やがてKさんも加わっ
て、二人で滅茶苦茶に蹴り始めた。パキって音が、2、3回立て続けにした。多分肋骨が折れた
んだと思う。

『袋』の動きが止まった。その時なぜか、男は頭を振って、俺に気が付いた。それまですごい形相
で、暴れていた男が、急に泣きそうな顔で、俺を見つめた。

 Sさんが「袋に戻せ」と言うと、Kさんが男の肩のあたりを、足で抑えながら、袋を引っ張って、男を
中に戻した。今でもその光景は、スローモーションの映像のまま、俺の記憶に残ってる。男は袋に
戻されるまで、ずっと俺を見てた。一生忘れられない。
続く