[井戸の地下]
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首都高の環状線はさ、皇居を見下ろしちゃいけないとかでさ、何ヵ所か地下に入るよ
ね。恥ずかしながら、俺は運転には自信あるけど、道覚えるのは、苦手なんだよね。方
向音痴だし。

 多分環状線を、2周くらいしたと思う。車が途切れたところで、突然Nさんが乗るベンツ
が、トンネルの中で、ハザード出した。

 それまでSさんもKさんも、ひと言もしゃべらなかったけど、Sさんが、右の車線に入って
止めろって。言われるままに止めたよ。そこって合流地点だった。で、中洲みたいになっ
てるとこに、バックで車入れろって言うから、その通りにして、ライト消した。

 両側柱になってて、普通に走ってる車からは、振り返って見たとしても、なかなか見つけ
られないと思う。まあ見つけたとしても、かかわり合いにならない方が良いけどね。Nさん
が乗ったベンツは、そのまま走り去った。

 SさんとKさんは、二人で荷物を下ろしてたけど、俺にも下りて来いって。俺はこの時も、
嫌な予感がした。今まで呼ばれた事なんて無かったし。

 SさんとKさんが、二人で担ぎ上げてるビニールの袋。映画とかでよく見る、死体袋とか
いう黒いやつ。もう中身は、絶対に人間としか思えない。

 とんでもない事に巻き込まれたって思って、腰が痛くなった。多分腰抜ける寸前だったん
だろう。何で組の人じゃなくて、俺なの?ってその時は思ったけど、その理由も後になれば
分かったんだけど。

 で、Sさんがポケットに鍵があるから、それ使って、金網の扉の鍵開けろって言うから、言
う通りにした。金網開けて、5〜6メートルで、また扉にぶつかる。扉というより、鉄柵って感
じかな。だって開ける為の把手とか無いし、第一鍵穴すら見当たらない。

 どうすんだろうな〜と思ったら、またSさんが別のポケットを指定。今度は大小ひとつずつ
の鍵。コンクリの壁にステンレスの小さい蓋が付いてて、それを小さい方の鍵で開ける。中
に円筒形の鍵穴があって、それは大きい方の鍵。それを回すと、ガチャって音がして、柵が
少し動いた。

 右から左に柵が開いた。壁の中まで柵が食い込んでて、その中でロックされてる。鍵を壊
して侵入は、出来ない構造らしい。

 更に先はもう真っ暗。マグライトをつけて先に進んだけど、すぐに鉄扉に当たった。
『無断立入厳禁 防衛施設庁』って書いてあった。これは不思議だった。だってここ道路公
団の施設だよね?

 ていうか、こんなとこ入って、平気なのかなって思った。まあこの人たちのやる事だから、
抜かりは無いとは思うんだけど、監視カメラとかあるんじゃないのって、不安になった。まあ
中に進んだら、もっと不思議なもんが、待ってたんだけどね。鉄の扉も、さっきの鉄柵と同じ
要領で開いて、俺たちは中に入った。

続く