[旅館での一夜]
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従業員は「この旅館でそのようなことはありません!」とむきになり、
部屋へ入り押入れを見渡す。そこには何も無い。押入れの下部分には
布団が入ってるのみ。「誰もいないじゃないですか、ただの見間違いです。」
と威圧的な態度で言う従業員。ただ、振り向いた際に「ヒッ」と驚きの声を出し尻餅をつく。
俺は何が起きたのかわからずに従業員が見ていた方向、窓を見るも何も映ってない。
再度、「ひぃーー」と押入れから離れて廊下に逃げ出す従業員。
何が何だかわからない客一同。「何ですか?どうしたんですか?」と聞くと
「下、押入れの下」と言う。直ぐに男性客が部屋に入り押入れ下をみるも
布団があるのみ。反対側の襖を開けて確認してもやはり布団があるのみ。
「なんですか?何も無いですよ?」と言った瞬間、6人全員がいる状況で
窓ガラスが コンコン、コンコンと叩かれた。一斉に窓を見る。
窓には部屋が映っている。人数は合わせて6人。窓には廊下に座ってる従業員も映ってる。
女性達も映ってる。俺も彼女も映ってるし男性客も映ってる。
ただ、布団と布団に挟まれてもう一つ顔がある。男性なのか女性なのかは分からないが
顔らしきものがある。男性客が直ぐに押入れから離れて確認する。その様子も窓には映っている。
しかし、俺を含めた他の人たちの目は窓の中の押入れに釘付け。
その顔らしきものはズズズ ズズズと音を出しながら出てこようと顔を引き摺って
体を捩ってるように見える。ズズズ ズズズ の間にハァと息遣いも聞こえる。
男性客はそこから逃げるように後ろへ。それを追いかけるようにズズズと顔も出てくる。
そこで彼女は違和感を感じたらしく「そっちじゃだめ!」と男性客に言った。
ちょっと表現するのが難しいが通常、鏡は前後が逆に映る。
つまり男性客が後ろにさがれば男性客の背中が窓に大きくなって写る。
同様に顔が近づけば顔も大きくなって写ってくる。
ただ、彼女の一言で気付いたのが
顔は布団から出てきてると言うよりも、窓から出てきてるように見える。
男性の背中は大きくなって写っているが立体感は無いのに対して、
顔は出てくれば出てくるほど立体感を増している。
男性客に「こっちへ逃げて!」と言うと直ぐにこちらへ逃げてきた。
顔はどんどん布団から這いずって出てくる。ズズズ ズズズという音は
入り口横の押入れから聞こえるが、窓から顔が立体的に出てくる。
それと同時に段々と顔だったものがはっきり見えだす。
今まで顔と思ってたが、顔で合ってるのかどうかを疑いたくなるような
奇怪なモノが窓から出てきた。それはグチャグチャな薄桃色の塊だった。
体はグチャグチャになっており、それを顔のような塊が引き摺っていた。
その際に出る音が ズズズ だった。
人の目の場所に垂れさがった目玉と口の位置に窪みがあるため
人の顔に見えてただけで、実際は布団から何が出てきてるのかわからない。
今まで発狂していた女性客達も、何が起きてるのかわからずただ呆然としている。
その瞬間
「そっちじゃねぇおぉ」と後ろから声が聞こえた。
それと同時に顔の様な塊は「ああああああああああああああああああああああああああああ」
と動物の鳴き声の様な叫び声を上げて凄い速さで這いずり回り
窓の外に向かってくねくねと動きながら這って行った
続く