[何かを探す男]
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・・・急激に恐怖が体中を駆け巡る。
その恐怖心に気付いたかのように、急に若い男は下を向いたまま、ガードレール
を越えて俺のいる車道側に出ようとしだした。
俺はビックリして車を急発進させた。男を避けるように反対車線のガードレール
すれすれにそのカーブを抜けていく。
怖い・・・風がさっきより冷たく感じる。寒さと恐怖で歯がガタガタいっている。
チラリとバックミラーを見たが、月の灯りも無いそこには暗闇しかない。
やはりあんなところに人がいるはずが無い。
車の幌を外したことを後悔する。怖さ倍増だ。タイヤのスキール音を立て、
ガタガタ震えながら山道を抜けていくと、やっと他県の国道が見えた。

国道への出口にはパトカーが数台止まっていて、1人の警官が山道から出てくる
俺の車を止めた。
「おい!どこからこの山に入ったんだ!?」と怒鳴られたが、
「変な奴が山の中に!!!」
と、俺は警察の質問など無視して騒いだ。そのまま署に任意同行。

なんでもその日の昼(日が替わっていたので正確には前日の昼)に、その山で
バラバラ遺体が発見されたらしい。
俺が山に入った側の県でも、山道への通行止めをしていたはずだ、と言われたが、
俺が入ったときにはパトカーなんて1台もいなかった。
犯人は既に捕まっていて、犯人の自供で遺体が発見されたので、俺に容疑が
かかることはなかったが、俺の「変な奴がいた」発言が面倒なことになり
なかなか帰らせてもらえなかった。
その男の特徴と目撃したところを説明すると、警察が見に行った。
でもそこには誰もいなかったし、ガードレールの向こう側を人が歩いた形跡も
なかったらしい。
あれこれと調書を取られ解放されたときにはもう空が明るくなってきていた。
帰り際、警察に亡くなった人はどんな人かと聞くと、中年の女性とのこと。
俺が見たのはその亡くなった人ではなかったようだ。少しホッとした。
・・・じゃあアレはなんだったんだ?

家に帰り気絶するようにすぐ眠った。目を覚ましたのは夕方だった。
テレビをつけると、そのバラバラ殺人事件はニュースでも大きく取り
上げられていた。俺は煙草を吸いながらボーッと見ていた。

『・・・昨晩、山中遺体で発見された○○○○さんの長男□□さん22歳が
 自宅で首を吊っているところを遺体で発見されました。
 遺体は死後15時間以上たっており・・・・・・・・・』

俺が見た若い男だった。
そして、何故ずーっと下を向いたままだったのかを理解し身を震わせた。
それからもう山には行っていない。


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