[何かを探す男]

昔の話。俺は夜の山道を車でよく走っていた。
知り合いに無理言って譲ってもらったMGミジェット。
時代遅れのボロい車だったが、嬉しくてしょうがなく、毎晩のようにバイト
終わりで山に行っていた。

その日も深夜0時過ぎにバイトが終わり山に向かった。
6月の中旬ぐらいだったと思う。空は曇っていたが雨が降りそうな気配は無い。
車の幌を外しバイト先の駐車場を出た。

バイト先から山道の入り口までは約20分。今はその山道には平日・週末問わず
走り屋の車で溢れているが、その頃は週末にチラホラ数台いるぐらいで、平日
の深夜は貸切状態だった。

国道から山道の入り口に向けて右折する。
車は1台も見当たらない。速い車に迷惑かけないで済みそうだ。

その山道には道路灯も無い。ヘッドライトの灯りだけが道路を照らす。
慎重にギアチェンジをしながら走って行く。
しばらく走ると、直線と比較的緩やかなカーブのエリアになる。
そこで一息ついてスピードを落とした。この辺りが山の一番深いところになる。
このまま進むと他県に抜けてしまう。
「そろそろ戻ろうかな」と考えながらタバコを咥えて直線をトロトロ走っていた。

道は50mぐらい先で右にカーブしている。ヘッドライトのハイビームが白いガード
レールを照らす。
そのときヘッドライトの照らす先に何かが見えた。
「?」目を凝らしながら車のスピードを落とし、ゆっくり近づく。
人だ。若い男。20代前半ってところか。右カーブ入口辺りのガードレールの向こう
側で下を向いて立っている。
(単車でこけて、何か落としたのかな?)
と思い、カーブ手前で車を止めて声をかけた
「大丈夫ですかー?なにか落としました?」
結構大きな声で話しかけたのだが、その男は下を向いたままでこちらには
目もくれない。っていうか、車のヘッドライトで照らされていて、一度も
顔をあげないってどういうことだ?
と、そのとき気付いた。単車なんてどこにもない・・・車も無い。
徒歩でここまで来るなんて考えられない。しかも男は懐中電灯すら持っていなかった。

続く