[赤ババア]
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当時は時計なんて持っていなかったので、正確は時間は分からないが、
寺から既に1時間以上は歩き続けていたと思う。
隣の市に入ってからも随分経っており、既に周囲は俺達にとって
全く馴染みのない風景となっていた。
それからもう暫く歩いて、赤ババアは突然歩道から右折した。
そこは雑木林で、家とか建物は全く無い所だったので驚いた。
赤ババアは、歩道から雑木林の中の獣道のような道に入り、
林の中へと消えて行ったのである。
20m程離れていた俺達は、急いでその場所に駆け寄った。

その雑木林は、台地の斜面に位置しており、細い獣道が谷底に向かって続いて
いるのが確認できた。
探偵か刑事にでもなったかのように盛り上がっていた俺達は、迷わずその道を進んだ。
おっかなびっくり谷底に降り、雑木林を抜けるとそこは畑&植木畑になっていた。
獣道から続くように、植木畑の中に道が伸びているが、赤ババアの姿は既に見えなかった。
雑木林を抜けるのに、かなり慎重になっていたせいで、距離をとられてしまったらしい。
そうなると、そこかしこの植木の陰に、赤ババアが潜んでいるんじゃないかという気がし、
周囲に全く人気がないこともあって、なんだか急に心細くなってきたことを覚えている。
それでも恐る恐る歩を進めていると、遠くから、

「うぅぅぅうおうぅぅぅおうぅぅぅ〜〜〜」

と、低い声で誰かが唸っているような音が聞こえてきた。

時に長く、時に短く、その音は発せられていた。
余りの気色悪さに俺達は互いに顔を見合わせ、ここで引き返すかどうか相談した。
どうみてもこんな所に家があるようには思えなかったし、日も大分傾いてきていたので、
俺は正直帰りたかった。
そして何よりも、唸り声が気味悪かった。
しかし、Aは、

「ここ迄来たんだから、赤ババアの家を絶対突き止めてやる!」

とヤル気を見せていたし、Bも

「そうだよ、クラスのみんなに自慢してやろうぜ!」

とAに同調し出したので、2対1の多数決で、探査続行となってしまった。
今から思えば、ここで引き返していたら、あんな思いをする羽目にはならなかった筈だ。

続く