[赤ババア]
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時折聞こえてくる唸り声にビビリつつも、再び歩を進めると
植木畑の中に、今歩いている道と交差する道が現れた。
ひとしきり左右を確認するが、赤ババアの姿は見えない。
このまま直進するか、右折するか、左折するか?
再び協議の末、唸り声が聞こえる右手の方に進んでみることになった。
確かに、怖いが、その正体を確かめてみたい気もしないではない。
その道の先は、普通の畑になっていた。
その畑の中に、土饅頭のように盛り上がった場所が何カ所かあり、
その中の一つの上に、浴衣を着たオッサンが裸足で立っているのが見えた。
そのオッサンは、うつむいて何かブツブツつぶやいている風だったが、
突然頭を持ち上げると、
「うぅぅぅうおうぅぅぅおうぅぅぅ〜〜〜」
と唸り出した!
先程から聞こえていた唸り声の主はこのオッサンだったのだ!
余りの異様さに、俺の目はオッサンにクギづけになっていたのだが、
Bが、土饅頭の麓で蠢く何かに気づいた。
「なあ、あそこで動いてるの、赤ババアだよ〜〜」
言われて見てみると、確かに赤ババアだった。
赤ババアが土饅頭の麓で横たわって、オッサンの唸り声に合わせてゴロゴロと転がっていたのだ。
もう、何が何だか訳が分からなかった。
何でオッサンは土饅頭の上で不気味な唸り声を上げているのか?
何で赤ババアはその麓で転げまわっているのか?
俺達3人は、何も喋ることもできず、植木の陰で呆然とその異様な光景を眺めていたのだった。
暫く、そうして浴衣のオッサンと赤ババアを眺めていたのだが、突然背後から、
「ブッ!」
という音が聞こえた。
俺はAかBが屁でもこいたのだろう、こいつら余裕あるな、等と感心していたのだが、
更に立て続けに
「ブッ、ブッ、ブッー!」
と屁のような音が聞こえてきた。
さすがに違和感を感じたので、振り返ってみると、俺達のすぐ後ろに、
グレーの作業着を着たじいさんが立っていたのだった!
浴衣オヤジと赤ババアに気をとられていたため、じいさんが背後から接近してきていることに
全く気付かなかったのだ!!
じいさんは無言で立っていた。
じいさんは俺達の方に顔を向けているが、視線は全く泳いでいて、
誰を見ているのか、何を見ているのか、さっぱり見当がつかなかった。
それが物凄く怖かった。
そして、じいさんは、言葉を発するかわりに、
「ブッ、ブッ、ブッー!」
と屁をこいていたのである!
俺達は、一目散にその場から逃げた。
道も植木も畑も関係なく、とにかくダッシュで逃げた。
「うぅぅぅうおうぅぅぅおうぅぅぅ〜〜〜」
「%#ぎ!¥?>$”’=#ぐ!!!!〜〜〜〜!!!!」
浴衣オヤジの唸り声と共に、赤ババアの金切り声が聞こえてきた。
俺達はとにかく走った。
が、そこは谷間。
すぐに反対側の斜面に行く手を遮られてしまった。
仕方ないので、斜面にそって、あてずっぽうに走る。
どこか斜面の上に通じる道はないかと、探してみるが、こちら側の斜面はより傾斜が急で、
登れそうな所が中々見つからない。
その代わり、斜面にぽっかり開いた穴があるのが目に入った。
何故だか分からないが、俺達は吸い込まれるように、その穴に入ってしまったのである。