[赤ババア]
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Aの話しによれば、赤ババアがこちらに向かって走り出してきた際、
彼はUターンしている余裕はないと判断し、
土手を駆け上がって、俺達とは反対方向に逃げたのだそうな。
その後、赤ババアが自分を無視して、俺達を追っていくのが見えたので、
俺達が逃げ込むとすればココではないかとアタリをつけて、様子を見に来てくれたとの事。
Aのことなぞ一切忘れて逃げ出した自分の不甲斐無さと比べ、
何と義理堅いことだろうか?
俺は改めて、「Aっていい奴だな」と思った。

とりあえずお互いの無事をよろこびつつ、俺とBは、Aに状況説明。
赤ババアが墓地の方へ去ったことを告げると、Aはこう切り出した。

「なあ、仕返しに、赤ババアの家を突き止めないか?」

と。
そう、俺達は赤ババアがどこから来ているのか、どこに住んでいるのかは
一切知らなかったのである。
親や大人達も知らない様子で、当時の俺達にとってそれは最大級の謎の一つだった。
さんざん驚かされた仕返しに(ま、俺達が悪いんだが)、
その謎を解明してやろうという訳である。
そう言われてみると、赤ババアの家を突き止めれば、何となく赤ババアの鼻を
あかせるような気もするし、
この謎を解明できれば、学校で暫くはヒーロー扱いされるのは間違いない。
普段は相手にしてもらえない女子達からもチヤホヤされるかも知れない。
それは、素敵なアイディアである!
俺もBもスグにその提案に乗った。
さっきまで、あれ程ガクブルな目にあわされていたにも関わらず。
そして、それとは比べ物にならない位の恐怖への入口であるとも知らずに...。

俺達は、墓場にいる赤ババアに気取られないように、小屋の背後から幼稚園を経由して
寺の敷地を抜け出し、寺に至る通路を見渡せる位置にある駐車場のトラックの陰に身を潜め、
赤ババアが寺から出てくるのを待った。
寺から赤ババアが出てきたら、その後を尾行し、自宅を突き止めようという作戦である。
どの位待ったかは良く覚えてないが、小一時間位待ったように思う。
3人で、「もしかしたら、スゲー屋敷に住んでんのかもな」とか、「どっかの橋の下だろ」等と、
赤ババアの住まいに関して、長々と語り合った気がする。

暫くすると赤ババアが、俺達が逃げ込んだ時に使った道から出てきた。
そのまままっすぐ、元来た方向へ戻るのかと思いきや、赤バアアは路地を左折。
俺達が潜む駐車場に向けて歩いてきたではないか!
三たび背中に緊張が走る。
赤ババアは俺達が盾にしている車のすぐ手前迄迫ってきた。
このままだと見つかりかねないので、俺達はトラックの周囲を赤ババアの動きにあわせて
回り込むように迂回してやり過ごし、赤ババアの後ろをとることに成功した。
そして尾行開始。
俺達は、赤バアアに気づかれないと思う程度の距離を保ちつつ、後をつけた。
赤ババアは、ゆっくりとした歩調で、時折左右にゆらめきながら、
街外れの方向へ歩き続けていった。
市境を越えて、隣の市に入っても赤ババアは止まる気配も見せず、
ダラダラと歩き続けていった。

続く