[カン、カン]
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母が姉に何があったのか尋ねてみたところ、「あそこに女の人がいた」とだけ言いました。
母は不思議そうな顔をしてテーブルを見ていましたが、「早く寝なさい」と言って3人で寝室に
戻りました。私は布団の中で考えました。アレを見て叫び、寝室に行って母を起こして居間に
連れてきたちょっとの間、姉は居間でずっとアレを見ていたんだろうか?
姉の様子は普通じゃなかった。何か恐ろしいものを見たのでは?そう思っていました。
そして次の日、姉に尋ねてみたのです。「お姉ちゃん、昨日のことなんだけど・・・」
そう訊いても姉は何も答えません。下を向いて、沈黙するばかり。私はしつこく質問しました。
すると姉は小さな声でぼそっとつぶやきました。
「あんたが大きな声を出したから・・・」

それ以来、姉は私に対して冷たくなりました。話し掛ければいつも明るく反応してくれていたのに、
無視される事が多くなりました。そして、あの時の事を再び口にすることはありませんでした。
あの時私の発した大声で、あの女はたぶん、姉の方を振り向いたのです。
姉は女と目が合ってしまったんだ。きっと、想像出来ない程恐ろしいものを見てしまったのだ。
そう確信していましたが、時が経つにつれて次第にそのことも忘れていきました。

中学校に上がって受験生になった私は、毎日決まって自分の部屋で勉強するようになりました。
姉は県外の高校に進学し、寮で生活して、家に帰ってくることは滅多にありませんでした。
ある夜、遅くまで机に向かっていると、扉の方からノックとは違う、何かの音が聞こえました。
「カン、カン」
かなり微かな音です。金属っぽい音。それが何なのか思い出した私は、全身にどっと冷や汗が
吹き出ました。これはアレだ。小さい頃、母が風邪をひいて、私が代わって消灯をした時の・・・
「カン、カン」
また鳴りました。扉の向こうから、さっきと全く同じ金属音。
私はいよいよ怖くなり、妹の部屋の壁を叩いて、「ちょっと、起きて!」と叫びました。
しかし妹はもう寝てしまっているのか、何の反応もありません。母は最近ずっと早寝している。
とすれば、家の中でこの音に気付いているのは私だけ・・・。独りだけ取り残されたような
気分になりました。そしてもう1度あの音が。「カン、カン」
私はついにその音がどこで鳴っているのか分かってしまいました。
そっと部屋の扉を開けました。真っ暗な短い廊下の向こう側にある居間。そこはカーテンから漏れる
青白い外の光でぼんやりと照らし出されていた

続く