[カン、カン]
前ページ

キッチンの側から居間を覗くと、テーブルの上にあの女がいた。幼い頃、姉と共に見た記憶が
急速に蘇ってきました。あの時と同じ姿で、女は白い着物を着て、すらっとした背筋をピンと立て、
テーブルの上できちんと正座し、その後姿だけを私に見せていました。
「カン、カン」
今度は、はっきりとその女から聞こえました。
その時私は声を出してしまいました。何と言ったかは覚えていませんが、またも声を出して
しまったのです。すると、女は私を振り返りました。女の顔と向き合った瞬間、私はもう
気がおかしくなりそうでした。
その女の両目には、ちょうど目の中にぴったり収まる大きさの鉄釘が刺さっていた。
よく見ると、両手には鈍器のようなものが握られている。そして口だけで笑いながらこう言った。
「あなたも・・・あなた達家族もお終いね。ふふふ」

次の日、気がつくと私は自分の部屋のベッドで寝ていました。私は少しして昨日何があったのか
思い出し、母に居間で寝ていた私を部屋まで運んでくれたのか、と聞いてみましたが、
何のことだと言うのです。妹に聞いても同じで、「どーせ寝ぼけてたんでしょーが」とけらけら笑われた。
しかも私が部屋の壁を叩いた時には妹は既に熟睡してたとのことでした。そんなはずない。
私は確かに居間でアレを見て、そこで意識を失ったはずです。誰かが居間で倒れてる私を見つけて、
ベッドに運んだとしか考えられない。でも改めて思い出そうとしても頭がモヤモヤしていました。
ただ、最後のあのおぞましい表情と、ニヤリと笑った口から出た言葉ははっきり覚えていた。
私と、家族がお終いだと。

続く