[長いトンネル]
前頁

一本目を抜けて安堵した矢先に
すぐ目の前にまたトンネルが見えたのよ。
「またかよ」って思ってさらに愕然。
向こう側の明かりが点。「長ッ!」
思わず突っ込むほど。一本目の時も極力、トンネルの壁とか
気にしないようにしてた。オカルト嫌いじゃないけどこんなトコで
出くわしてもおれ徒歩だし。逃げようがないじゃん、トンネルって。
まあ、朝だし、なんにもないかって思いながら中入ったのよ。
トンネルの中ってあんまり昼とか夜とか関係ないね。
橙灯が中途半端にぽつぽつついてるだけで外のあかりがすぐに
かき消されてく。で、俺は極力、前と足下しかみてなかったんだけど
田舎だからなのか、すっごいボロボロなのよ。
溶けた雪が隙間からぽたぽた滴ってるし。
で、ふと気付いたのよ。車がこないの。
さっきまでびゅんびゅんきてたのに…中に入って五分ぐらい歩いた
あたりで…全然車が走ってこないの。たまたまなんだろうけど。
なんか急に寂しくなってきた。だって車がきてるから
人の気配がしたわけで…俺がトンネルに入ってから
その気配が全然なくなった気がしたわけ。でさ、
急に冷えてきたの。トンネルの中って普通暖気がとどまるから
ぬくいはずなんだけど、汗が冷えたからなのかどうかは
わかんない。けど、めっちゃくちゃ寒いって思い始めた。

ガタガタ寒くなって。
そりゃ冬の雪山なんだから当然っちゃ当然なんだけどね。
したらここでまた重なるようにウォークマンの電池がきれたの。
一気に無音。さーーーって血の気が引いていく勢い。
たまにゴォォォォってトンネルの中で風の音が反響しまくってるの。
で、一歩歩く事に自分の足音がじゃりじゃり響く。
もうね、前なんかまともにみれない。大分歩いたかな。
多分、十五分ぐらいして、半分ぐらいまで歩いてたんだと思う。
後ろ見ると、入り口が点。前みると出口が点。
ひたすら、黙々と下だけ見ながら歩きすすんでいったわけよ。
…ふとさ、視界に白い物が目にはいった。
暗いからはっきりと見えないのね。
で、次第に近づくとなにかわかった。
花束だったのよ。
やばいやばい!
って頭の中でぐわんぐわん警鐘なってるの。
ぞわわって鳥肌が足下から首筋かけて来る感じ。
今までそんな体験したことなかったし霊感もなかったから
あれだけど、関節がギシギシ痛む感じがあった。
なんでこんなトコで花束!?って気持ち一杯。
足取りが一気に早くなった。
見たくないのに、壁の模様とかが気になって仕方ない。
所々ひび割れてる隙間からなにかが覗いてるような感じ。
なんでかわかんないけど、ホントになんでかわかんないけど
女がいる。そんな感じがした。どんな事故かも知らなかったし
なにがあったとかも知らない。けど女がいる。

続く