[長いトンネル]
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もうね、人間極限状態になってどうしようもなくなると歌うね。
歌ったさ、でかい声で何故かしらないけど
「はーれるや!」って何度もずっと繰り返し
ハレルヤ歌ったさ。お経じゃなくてなんでかハレルヤだったさ。
「はーれるや!はーれるや!」って全然歓びの唄じゃねえよ。
必死だよ。ただ、不思議と走れなかったんだよね。
走ると本気でついてこられる気がしたから、堂々したフリだけ
みせてさ。もう、急ぎたいけど走ったら来るって思った。
時々さ、視界にひらひら白いの薄い影が散らばるの。
雪だ。これは雪だ。って思うんだ。でももう片方で
トンネルの真ん中で雪が吹き込んでくるわけないってわかってる
部分もある。ひたすらハレルヤだけ歌って自分で自分を笑って
端からみたらおれが怖い人だよ。でも必死でしたよ。
時折、イヤホンしてたから風の音がひゅうひゅう聞こえる。
俺のハレルヤの声が馬鹿みたいにトンネル中に反響してる。

でも、おれ聞いちゃったんだ。女の悲鳴。
耳で聞こえる感じじゃないんだよ。脳内ガツーンって響くの。
あとはもう必死。とりあえず、トンネルから出たかった。
随分走ったよ。ついてきてるとかそんなのどうでもよかった。
息きらして、トンネルの出口が段々近づいてきた時には
「ああ、よかった出られるんだ」って
マジで安心した。外の明かりが見えて、眩しいなあって思って。
で、はっと振り返ったらさ。まあなんにもなかった。
普通のトンネル。真ん中なんかさ、随分くらいの。よくあんなとこ
歩けたな俺って思いながら…向こう側みようとするんだけど、
ただの暗闇。
若干カーブもしてたっぽい。こんなに長いトンネルだったなんてなぁ。
って思わず笑ってからこんどはさらに背筋がこおった。
じゃあ、俺が入り口で見た、出口だと思った明かりは
なんだったんだ?つうかあんなくらいトコでよく花束だなんて
分かったなぁ…妙に白く目立ってたけど…。
…よくわかんないけど、ほんと出れてよかった。
姿は見えなかったけど、確かに女はいました。


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