[多生の縁]
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「ダッシュ」ちの店には他の施設にはない秘密がある。どこにもない、秘密だ。
 入り口を入ってすぐ右にユーホーキャッチャーが置かれている。景品はちょっと流行おくれのぬいぐるみだったり、色々。
外見だってごく一般的で、白とピンクその他もろもろを使ったとにかく派手な色合い。「ダッシュ」のユーホーキャッチャーの異様は、
電飾が凄いとかそんなことじゃない。祟られているから凄いのだ。
 「……ゲームセンタ、ダッシュ。ここ、たぶん」
 店内は予想していたよりも健全な雰囲気があった。文子はほっとした。明るい照明に少しだけ勇気を貰う。
「いらっしゃいませ」と書かれた赤い色のカーペットを踏むと、のろく自動ドアが開いた。
      *       *
 見慣れない子がいる。
それはとても目立つ少女だった。薄い色の肌。卵形の整った輪郭。
切れ長の目は、濡れそぼってきれいだ。光を湛えている。
黒い髪は腰のあたりまであって、手入れが行き届いているのか、艶やか。
淡いみどり、太めのカチューシャがワンポイント。
右腕からぶら下がっているのは、旅行帰りかのような大げさな鞄。服装は白いシャツに、ふわりとしたグレーのスカートだった。似合っている。
しかしながら、この組み合わせには微妙な判定のローファーが気に掛かる。そうだ。話しかけてやれ。
「ねえ、」
    *        *
この店のユーホーキャッチャーにまつわる気味の悪い話。私は今、確かめようとしている。
祟りの概要――迫力に欠ける言い方だ――月曜日の、このユーホーキャッチャーはただで動く。三回までは。
それ以上ただで続けると呪われるというのだ。けちなもんである。
色々の情報を照らし合わせた結果、その三回というのは一人あたりのことらしい。まあ、そうでなければ今頃酷い状況になっていただろう。
何千という人が使った物だ。一人ごとにカウンタがゼロにならなければ、繰上げ当選者続出である。

肝心要は呪いの具体例だ。それが、なんと、まあ、ううん。曖昧。
ユーホーキャッチャーの中に誤って入り込んで死んだ幼児に別世界へ連れて行かれてねんねんころりだとか、
このユーホーキャッチャーの前でふられた女の生霊が彼を待ち構えているとか、
設置の際事故死した係員の怨念が軟派な子供を地獄の業火でアーチーチーアチー燃えてるんだろうか。
噂は噂。確たる証拠がないほどおもしろい。多くへ広まる。
だけど私は面白くないのだ。ぜひ暴いてやりたい。いや、乱暴をする気はない。ただ店側の客寄せならばそれでいい。
黙っていよう。だがもし、噂が本当で、本当の祟りがあるとするなら。
怪奇研究会の私は黙っていない。
今まさに、二回目を終えた。
機械の前に立ち、スタートボタンを押しただけで一回目は始まった。いやはやこれが細工なら、凝った仕掛けである。
一回目、成功。誕生日の付いている熊のぬいぐるみが引っかかった。ゲームには疎いが、ユーホーキャッチャーは訳あって得意なのだ。
二回目、成功。同じく熊のぬいぐるみ、白。さて。

続く